財前君と幼なじみ
何か不測の事態がおこった時、私がつい頼ってしまうのは光君で、それは昔からずっと変わっていない。
「光君。」
「なんや?」
「ラブレターもらった。」
光は読んでいた雑誌をパタリと閉じて、こっちを向いた。
「誰からや?」
「隣のクラスの子だって。」
「返事したんか。」
ううん、まだ、と言うと、光君は不機嫌そうに眉をよせた。
「光君、機嫌悪い?」
「まぁ、よくはないわな。」
普段、光君は機嫌悪いなんてめったに言わないから、光君が機嫌悪いって認めるのなんか珍しいな。
小さい頃は、表情がこわいからいっつも機嫌悪いのかと思って緊張してたなぁ、なんて思い出して笑っていると、何わろてんねん、としかめっつらで言われた。
あ、なんか本当に機嫌悪いみたい。
光君はしばらく黙っていたけど、ふいに口を開いた。
「なあ、小さい頃食べられへんって泣いて、俺が代わりに食べとったピーマン、今では好きになったやろ?」
いきなり何を言い出すんだろう、と不思議に思いながらも、こくりと頷いた。
そう言えば昔はピーマンとかグリーンピースとか光君が食べてくれてたっけ。
「犬も、こわいこわい言うて俺に泣きついとったんに、今は好きやろ?」
あったあったそんなこと。なんか懐かしいな。
でも、光は何を言いたいんだろう。
考えてみても光の意図はよくわからなかったけど、光の言っていることは事実だったから私はまた頷いた。
「俺のことも、そのうち好きになるわ、きっと。」
「へ?」
「せやから、そんな急にふってわいた隣のクラスの奴なんかやなくて、俺にしとき。」
「光君はピーマンや犬じゃないよ。」
なんて言えばいいかわからなくてとりあえずそう言うと、光君は、んなことわかっとるわアホ、と言って頭をぺしっと軽くはたいた。
「ええから俺にしとき。」
光君はもう一度、私の目をしっかり見てそう言った。
そのうち好きになるも何も、私の気持ちなんて、気づいてなかっただけでずっと前から決まってたんだ。
いつも側にいてくれるのが当たり前で、これからもずっとそうやって側にいて欲しい存在。
「光君はやっぱりピーマンじゃないよ。」
え、俺もしかして回りくどくフラれとるん?と言う光君がなんだかいつもと違ってちょっと笑ってしまった。
「そうじゃなくてね。ピーマンは嫌いなのが好きになったけど、光君は前から好きなのがどんどん大好きになってるんだよ。」
だからピーマンとは違うね、とちょっとはにかみながら言うと、光君は理解するのに数秒かかったみたいで少しかたまっていたけど、すぐに片手で顔を隠した。
「…んなの、もっとはよ言えやアホ。」
そう言う光君の声はなんだか嬉しそうで、さっきまでの機嫌の悪さはどこかへ吹き飛んでしまったみたいだった。