小春ちゃんとガールズトーク
今電話してもいいかな、なんて思いながらベッドでごろごろして携帯を見ていると、小春ちゃんからの着信音が鳴った。
「小春ちゃん!ちょうど今かけようと思ってたんだ。」
「ふふ、ベストタイミングやね。」
「昨日は東京で不動峰と練習試合だったんでしょ?楽しかった?」
「もちろん!わらかして来たで〜!」
小春ちゃんの、大好きなテニスを思いっきり楽しむっていう姿勢、やっぱり好きだな。
「伊織ちゃんも来てくれたらよかったんに。ここ来る前は不動峰おったんやろ?懐かしいお友達と会えたんとちゃう?」
「え、小春ちゃん、不動峰から来たっていうの覚えてくれてたんだ。」
1回しか言ったことないのに凄い、と思いながらそう言うと、小春ちゃんは、ふふ、と笑った。
「当たり前やないの。伊織ちゃんが言ったことは、全部ちゃんと覚えてるで。」
「へへ、ありがとう。」
小春ちゃんのこういうさりげない発言で、私がどんなに嬉しく思っているかなんて、小春ちゃんはきっと知らないんだろうな。
「テニス部の子は仲良しさんおったっけ?おったんやったら、不動峰と四天宝寺、どっち応援するか迷ってまうかもね。」
「橘君と同じクラスだったから、クラスの友達と一緒によく応援行ってたけど、今は迷わず小春ちゃんの応援するよ!」
間違えた!四天宝寺の応援、じゃなくて、小春ちゃんの応援って言っちゃった。
いや、間違ってはないんだけど、なんて恥ずかしいことを言ってるんだ、私は!
恥ずかしがっているのを隠すように、私は慌てて違う話題をふった。
「橘君は元気そうだった?」
「おん、千歳と楽しそうに試合しとったで!」
小春ちゃんは、そんな私の心中の葛藤を知ってか知らずか、さっきの発言にはひっかからず、普通に答えてくれた。
「そっか、よかった。神尾君も桜井君も伊武君も石田君も森君も内村君も、皆みんな橘君を素直に慕ってて可愛い後輩だよね。」
「せやな、得に神尾君なんてめっちゃタイプやわぁ。」
「あ、わかるー!神尾君いいよね。クラスの友達と、テニス部に飲み物の差し入れした時とか、神尾君が一番喜んでくれたんだ。ああいう素直なとこ可愛いよね。」
「かっこいい、で言ったらやっぱ橘君やんな。あの背中はほんまついて行きたくなるわ。」
「だよねー!四天宝寺で言ったら、一氏君もかっこいいよね。面白いのになんかクールで。」
「クールー?ユウ君がー?はは、それこそおもろいわ。ユウ君はアタシからしたら可愛い系やね。」
確かに、小春ちゃんに対する一氏君は、クールとは言えないかも、と思ってちょっと笑ってしまった。
なんだか、かっこいいとか可愛いとかいっぱい言ってるけど、このノリのまま言っちゃってもいいかな?いいよね、よし、言おう!
私は小さく息を吸い込んでから、口を開いた。
「でも、でもね、私はやっぱり、小春ちゃんが一番、可愛くてかっこいいって思うな。」
なんでもないことのようにさらっと言うつもりだったのに、声が少し上擦ってしまった。
「え?」
小春ちゃんの不思議そうな声を聞いて、うわぁ、言わなきゃよかったよ、と半分泣きそうになりながら考えていると、受話器の向こうから、小春ちゃんの小さいけど嬉しそうな笑い声が聞こえた。
「おおきに。アタシも、伊織ちゃんが一番可愛くて、優しくて、魅力的やと思ってるで。」
「あ、あありがとう!」
本当の本当に、電話でよかった。
だって、部屋の鏡に映った私の顔は恥ずかしいくらいに真っ赤だったから。