後輩な財前君
今日は朝からまだ1回も財前君に会えてない。
もともと学年だって違うんだし、今まであんなに廊下とかで頻繁に会ってたことが不思議なくらいなんだよね。
会いたいな。財前君が私の名前を呼ぶ声、聞きたいな。
「伊織さん。」
そうそう、こんな感じ。
「伊織さん。」
いけない、ついには幻聴が聴こえてくるくらい、財前君不足なのかも。
「…伊織さん?どうかしたんスか?」
顔をあげると、少し不思議そうな顔をした財前君が立っていた。
「財前君?本物?」
「本物に決まっとるやないっスか。」
本当に本物かな、と思って、頭や頬っぺたを、ぺたぺた触っていると、財前君に腕をとられて、そのまま財前君の腕の中に閉じ込められた。
あ、財前君の匂いだ。
本当に財前君なんだ、と嬉しくなって、抱きしめられたままおでこをぐりぐりと財前君に押しあてた。
「甘えとるんスか?」
財前君の声はとっても優しくて、なんだか嬉しそうだったから、私も嬉しくなった。
「うん、甘えてんねん。」
「くっ、伊織さん関西弁へたやな。」
財前君は笑いながら、髪を撫でてくれた。
その手が心地好くて、財前君に、大好きだよ、って伝えたくて、ぎゅーっと抱きしめ返すと、財前君はふっと笑って、俺も伊織さんのこと好きやで、って言ってくれた。
さっきまで財前君不足だった心が財前君でどんどん満たされてきて、すっごく幸せだな、って思った。