続・ひねくれてる財前君
ひねくれてる財前君の続き
入学式の日の朝、学校の桜の樹の下で舞い落ちてくる花びらを掴まえようとしていた奴、それが神崎やった。
アホちゃうか、と思いつつ近寄ってみたんに、神崎は一切俺には気づかんかった。
なんやそれがちょっとしゃくで、なあ、と声をかけると、何?とまたこちらを見ずに答えた。
「なんで花びら追いかけてんねん。自分アホなん?」
「まだ入学式まで時間あるな、と思って散歩してたらこの満開の桜の樹見つけて。花びら掴まえたら願いこと叶うんだって。」
そんな花びら掴まえたくらいで願いこと叶うか、なんて思いつつ、やっとちゃんと返事をされたことに気をよくしてさらに会話を続けた。(まあ、いまだに一切俺を見んと花びらばっか追いかけてんのはちょっと腹立つけど。)
「どんな願いことなん?」
「…え?」
またどうせ花びら見ながら答えられるんやろうな、と思いながら聞くと、意外にもそいつは動きをとめてこっちを見た。
初めて、目があった。
そいつは数秒間ぽけーっとしとったけど、ふいに笑った。
「あはは、花びら掴まえようとするのに必死で、願いこと考えるの忘れてた。」
アホや、こいつほんまにアホや。
せやけど、そんな様子も楽しそうやったから、まあええか、なんて思ってちょっと笑った。
「あったかな、そういえば、そんなこと。」
「あったかな?ちゃうわ、あったんや。」
財前君と私、やっぱり1年の時面識なかったと思うんだけど、という神崎にあの入学式の出来事を説明すると、神崎はやっとぼんやりと思い出したような顔をした。
「でもなんていうか、財前君、私のことアホとしか言ってないよね。」
「めっちゃアホやって思ったんやからしゃーないやんけ。」
うわ、めっちゃがついた、さらにひどいよ、と言う神崎を見て気づかれないようにちょっと笑った。
「めっちゃアホ、っていうので印象に残ってたなんて、なんだかすごく微妙なんだけど!もう、聞かなきゃよかった。」
神崎は少しふてくされたみたいな表情をしていて、前より少しは俺のこと意識してくれとんのかな、って嬉しくなった。
前は名前すら覚えられてなかったわけやし、そう考えるとめっちゃ進歩や。
神崎が俺のこともっともっと見てくれたら、そんときは、ほんまはそんな無邪気なとこがかわええって思ったんや、って言ったろ、なんて心の中で思った。