銀さんとホワイトデー
どうしよう。ついにこの日が来てしまった。
「アカン、ホワイトデーや。」
「伊織、もっとええ顔せんかい。なんや朝から。」
こっちまで気分悪くなりそうやわ、と一氏に言われたけど気にしない。
「ユウ君、伊織ちゃんは乙女の悩みで胸が張り裂けそうなんやから許したり。」
「小春ちゃん!わかってくれる?」
私が感動した目を向けると、小春ちゃんは当たり前やないのと言って私の両手をブンブン振ってくれた。
一氏が、浮気か、とか言ってたけど気にしない。
「あ、銀や。ぎーん、銀!」
「な、なんで呼ぶんや、一氏のアホ!」
え、なんかアカンかった?という顔で見てくる一氏を張り倒したくなった。
そうこうしてるうちに銀さんがやってきた。
「なあ、銀聞いてや、こいつ今日ずっとテンション低いねん。」
一氏はほんまうっとい、と言いながらため息をついた。
「伊織はん、どうかしたんか?」
銀さんはいつも通り、優しく話しかけてきた。
ほんま、いつも通り。
「ぎ、銀さんのアホー!」
キョトンとして全くわかってない銀さんに、私はさらに続けた。
「バレンタインチョコ渡したやん、好きやって言ったやん、フるにしてもなんにしても、何かしらアクション起こしてやー!いつも通りすぎなんやアホー。乙女の純情返せー。」
銀さんの固い胸をポカポカ叩きながら言うと、一氏が、乙女?どこに?と言って小春ちゃんにしめられてた。
「ははは、伊織はんはおもろいな〜。」
おもろいのは恋愛対象外っちゅーことかい、と胸を叩く力を強めたら、銀さんの掌で優しく拳を受け止められた。
「そんなに叩いたら伊織はんの手、痛なってまうで?」
「わーん、やっぱ銀さん優しい素敵好き、付き合って!」
半ば泣きそうになりながら銀さんの胸に飛び込むと、銀さんは受け止めてくれた。
「ははは、ワシも伊織はん好きやで。」
「え?」
「というか、チョコくれた後にも、おおきに、ワシも好きやでって言ったんやけどな。」
・・・。
聞いてなかったんかいな、と笑う銀さんに、私は絶句した。
「え、あれ、てっきりチョコが好きってことかと思っとった。」
私がびっくりして銀さんの胸から顔をあげると、銀さんはまた笑っていた。
「なんであのタイミングでチョコのこと言うねん。ほんま伊織はんはおもろいな〜。」
「い、いつもいつもおもろい、ってなんやねん!別に笑いなんてとってへんねんけど!」
なんか恥ずかしくて銀さんの胸におでこを勢いよくつけると上から銀さんの優しい声が降ってきた。
「そんなおもろいとこも、かわええなって思ってんのや。」
銀さんにかわええって思ってもらえんなら笑いでもなんでもとったる!と言うと、そのままでももちろんかわええで、って言われた。
もうほんま、ときめきすぎて息止まったら銀さんのせいやわ。
「次の部活ない日に、一緒に甘味処行こうや。バレンタインのお返しで、なんか美味しいもん食べさしたるわ。」
「デート?デートなん、それ?」
私が目を輝かせてきくと銀さんは、せやな、デートやな、と言って笑った。
もう、ほんま、銀さん大好き。
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