愛情がわかりにくい一氏君
「一氏君、」
「あ?」
「調理実習でマフィン作ったんだけど、食べてくれる?」
一氏君は無言で私から3つのうちの1つを受け取ると、無言で完食した。
よかった、一氏君に食べてもらえた!
「…、微妙。」
「ごめんね、今度はもっと美味しく作るね!」
微妙、なんて言われたのに、一氏君が完食してくれたことが嬉しくて、私の頬はゆるみっぱなしだ。
次はもっと美味しく作って、マシ、くらいは言ってもらえるようにがんばろう、と心の中で気合いを入れていると、一氏君は私が持っているマフィンに視線を移した。
「そっちのもよこせや。」
「え、でも、微妙だから無理しなくていいよ。」
不安に思ってそう言いながらもとりあえず渡すと、一氏君は今度は残りの2つ全てを受けとった。
「アホ。こんな微妙なもん、他の奴に食わしたらかわいそうやろが。」
「ふふっ、でも一氏君は食べてくれるんだね!優しいね、ありがとう!」
一氏君は2つとも完食してから、また一言、微妙、と言った。
微妙ってわかってるのに3つとも食べてくれるなんて、一氏君優しい!
「お、ユウジと神崎!神崎のクラス調理実習やったんやろ?なんかくれへん?」
「私の作ったマフィンね、微妙な味だったから一氏君が全部食べてくれたんだ!」
優しいよね、と笑いながら言うと、謙也君は口元をひきつらせ微妙な顔をした。
「はは、優しい、な。うん、優しい。」
「うん!じゃあクラス戻るね。一氏君、謙也君、またね!」
「おー。」
「おん!またな!」
一氏君が優しいと言うと、みんなさっきの謙也君みたいな微妙な顔をするけど、つまらなそうな顔をしながらもちゃんと返事をしてくれる一氏君はやっぱり優しいと思った。
「マフィン微妙やったん?」
「いや、めっちゃうまかったで。」
「ほななんで微妙とか言うん?神崎かわいそーやん。」
「やって伊織、俺が微妙って言うと、俺の為だけに、俺が美味しいって言うもんを作ろうってがんばるんやもん。その間はずっと俺のことだけ考えてんねんで。なんかそういうんって、かわええやん。」
「へ、へぇ、ほどほどにな。(笑顔こわっ!神崎、ほんま逃げぇ!)」