財前君とライブデート
友達に断られたライブチケットを見つめ、ため息をついた。
心斎橋のライヴハウスまで一人で行くのが心細かったからつい2枚買っちゃったけど、いつも通り自分の分だけ買えばよかった。
「あ、」
「え?」
ふと声が聞こえて顔をあげると、財前君がこっちを見ていた。
こっち、というか、どうやら私の手の中のチケットを見てるみたい。
「そのバンド好きなん?」
「うん、財前君も?」
「おん、でもこないだの路上ライヴんとき部活やったからチケット買えてへんねん。ま、郵送で買うつもりやけど、やっぱチケットは手売りがええな。」
「あ、わかる!なんか直接買いたいよね。」
郵送も届くの待つ間ワクワクするけど、路上のあとにその流れでチケット買うのが好きなんだ、と言うと財前君も、同じや、と言った。
なんだ。財前君って、なんか話しにくい人かと思ってたけど、全然そんなことないじゃん。
「あ、チケットまだ買ってないならこれ使わない?今度のライヴ、心斎橋だから、ちょっと心細くて2枚買ったんだけど、友達に断られちゃったんだ。」
「ええんか?」
「うん、余らせたらもったいないし。」
「おおきに。ほな、5時に心斎橋のハンズ前な。」
「え、」
財前君はぽかん、としている私からチケットを受け取りお金を渡すと、去って行った。
え、一緒に行くの?今日まであんまり話したことなかったのに?、と少し不安にも思ったけど、財前君は思いのほか話しやすかったしちょっと楽しみになった。
「すっごくよかったね!もう、本当来てよかった!」
「せやな。」
言葉はそっけないけど、ライヴ中は楽しそうにのっていたから、多分すっごく楽しかったんだと思う。
素直に言えばいいのに、と思って笑っていると、財前君に、何わろてんねん、とつっこまれてしまった。
今まではただのクラスメイトだったのに、なんだかここ数日で財前君とずいぶんうちとけた気がする。そう思ってるのが私だけじゃないといいんだけど、と思いながら足を心斎橋駅に向けた。
いつもはライヴ帰りはライヴ仲間と盛り上がったのりのままカラオケに行くんだけど、財前君は行かないよね。
うーん、ライヴ熱がおさまらないけど我慢しよう。
「じゃあ帰ろっか。」
「は?」
なんで、は?と言われたのかわからなくて、へ?と言うと、何言うてんねん、と返された。
「なんで帰ろうとしてんねん。」
「いや、だってライヴ終わったし。」
「ライヴ終わったらカラオケやろ。行くでー。」
「っ!うん、行く、めっちゃ行く!」
財前君は私の手をひいて歩きながら、めっちゃ行く、ってなんやねん、と笑った。
意外だけど、もしかして、財前君とはすっごく気があうんじゃないだろうか、なんてことに今更気がついた。
「なんか気ィあうな。また次も一緒行くで。」
「うん!」
どうやらそう思っているのは私だけではなかったようで、嬉しくなった。