一氏君にそわそわ
いつもはおろしたままの髪をあげてみたせいで、なんだか今日は首元が涼しい。
「おはよ、伊織ちゃん。あら、髪型変えてんな。かわええで〜。」
「おはよう。うん、ちょっと気分転換!小春ちゃん、ありがとう。」
髪型の変化にいち早く気づくなんて、小春ちゃんやっぱり乙女度高い!なんて思いつつ、私は自分の席について、隣の席をちらっと見た。
「あ?何見てんねん。なんか用か?」
「い、いや、なんでもない。」
ちらっと見ただけのつもりが視線を気づかれてしまって焦っていると、一氏君にちょっと笑われた。
「なにそわそわしてんねん。」
一氏君に髪型変わったの気づいてもらえるかなってそわそわしてるんだよ、なんて、もちろん言わないけど。
というか、こんな些細な視線には気づくけど、髪型の変化には気づかないってどういうことだよ。
なんだかちょっとふて腐れた気分になって、なんでもないって言ってるじゃん、と言うと一氏君は、うわー、感じ悪っ、と楽しそうに笑った。
感じ悪いのはどっちだ、どっち。
髪型こんなに変えたのに全く無反応とかさ。こないだ小春ちゃんがウィッグつけてたときはすぐに、髪型ちゃう小春も天使や!って言ってたのに。
…ん、あれ?もしかしなくとも私って、一氏君に全く興味持たれてない?
いや、よく話すしそんなこと、…あ、そういえば話しかけるの殆ど私からだ。
いやいや、一緒に遊びに行ったことも結構あるし、…あ、そういえば、こないだ3人でタコ焼き屋さん行ったとき、小春と俺の邪魔すんなやって言われたっけ。
なんだか自分の考えにショックを受けてしまって、机に突っ伏した。
一氏君の興味は全て小春ちゃんとテニスにそそがれているから、私になんて全く興味ないんだよ。でもそんな一直線なとこも大好きだよばか。
「ん、そういえば、髪型変えたよな。」
「え、うん!」
気づいてもらえた!と喜びながら机から顔をあげると一氏君と目があった。
一氏君はそのまま無言で私を見てきた。
「な、なに?」
沈黙にたえられなくなった私が戸惑いながら聞くと、一氏君は、ちょっと笑った。
「いや、なんか新鮮でええな、と思って。似合ぉとるやん。」
「あ、りがとう。」
どうやら少しは興味を持ってもらえてるみたい、です。
恥ずかしくなって、私はまた机に突っ伏してしまった。