short | ナノ


白石君とホワイトデー


今日は待ちに待った当日。

3月14日。そう、ホワイトデーや。

「謙也、ついに来たで。ホワイトデー。」

「せやな。」

謙也は何故かうんざりした顔で返事をした。

「なんでそんな顔してんねん。」

「そりゃ、バレンタインから毎日毎日カウントダウンされりゃ、こうもなるわ!」

しゃーないなやん、今日の日を毎日毎日待ってたんやから、と思いながら謙也を見ると、ため息をつかれた。

「まあ、今日でこれも終わりやな。神崎にお返しすんねやろ?」

「おん。」

「お、あっち神崎おるやん。お〜い、神崎〜!ちょぉこっちきぃや〜!」

謙也は廊下の向こう側に神崎さんを見つけると、俺に何も聞かんといきなり神崎さんを呼びとめた。

ここで普通やったら慌てるところやろうけど、俺は完璧な男や。

もうシュミレーションはばっちり。

いつでもかかって来いって感じやな。

「神崎、おはよ!」

「忍足君おはよう。」

ん、なんで俺には挨拶せえへんねん。

ああ、きっと恥ずかしがってんねんな。

「神崎さん、おはよう。」

「え、あ、おはよう。」

・・・。

な、なんやねん!

なんやその、え、この人なんで私に挨拶してんねやろ、って顔は!

いや、きっと、照れてるんやな!

バレンタインに俺にチョコを渡したのに、俺から返事がなかったからフラれたと思ってるんやな!

大丈夫やで、フラれてへん、フラれてへん。

すぐに返事せえへんかったんは、やっぱりバレンタインの返事はホワイトデーにすんのが基本やな、と思ったからなんや。

よし、まずこのお返しを渡そうと思って、鞄から包みを取り出していたら、神崎さんが謙也に話しかけた。

「で、なんか用事やったん?」

「や、俺ちゃうで。用事あんのは白石。神崎、バレンタインあげたんやろ?」

「へ、私が誰に?」

「神崎が白石に。あれ、ちゃうん?」

「白石君にはあげてないよ。あんまり話したことないし。あ、忍足君にはあげたけど、友チョコ。」

「「・・・え。」」

「俺、もろてへんで?」

「俺、もろたで?」

な、なんやそれ、どういうことや。

さすがの聖書と言われる俺も、冷静さを失いそうや。

「おかしいな〜。バレンタインの時、クラス来たら忍足君おらんかったから、誰かに忍足君にあげてな、って言って渡してんけど。」

「なあ、もしかして、それ白石やったんちゃう?」

「そうかもしれん。」

神崎さんは、びっくりやね〜って笑っとったけど、笑えへん、笑えへんで!

「神崎さん!」

「は、はい!」

「謙也にあげたかったチョコ、俺が食べてしもた。」

「そうなんや。ごめんな、いきなり知らん子からチョコ貰ったと思って、びっくりしたやろ?」

神崎さんは申し訳なさそうな顔で謝ってきた。

神崎さんが謝ることなんて一つもないんに。

というか謝る神崎さんもかわええ。

「いや、知らん子やないよ。ずっと神崎さんのこと、知っててん。せやから神崎さんからチョコ渡されて舞い上がって、謙也に渡してくれっちゅーの聞いてなかったんや。」

俺がそう言うと、神崎さんは、なっ、と驚いた声を小さくあげて顔を真っ赤にさせた。

「お返し用意してんけど、受けとってくれんかな?」

「あ、はい、ありがとう。」

神崎さんは顔を真っ赤にさせたまま、俺が差し出したものを受けとった。

ああ、ほんま真っ赤な顔もかわええ。

「ほんでな、神崎さんのこと好きなんやけど、付き合おてくれへん?」

「あの、私、でも、白石君のことよう知らんし。」

「よう知らんなら、これから知ってや。」

ちょっと寂しそうな顔で、あかん?と聞いたら、神崎さんはブンブンと首を横に振った。

そんなに振ったら首とれてしまうんちゃうか、と思って神崎さんの頬に手をあてて首を振るのをやめさせると、神崎さんはさらに顔を赤くした。

「俺と付き合おて?」

「は、はい。」

「おおきに。これからよろしゅうな。」

一応冷静そうに微笑みつつ、内心は、よっしゃー、とガッツポーズや!

「な、なんでや神崎!お前白石のことあんま知らんかったやん!」

「謙也、彼女おらんからってひがみはよくないで。」

「ひがみちゃう!」

「なんかな、白石君のことずっと見とったら気持ちがホワホワしてきて、ああ、もしかしてこれが恋なんかな〜って。」

「かわええ!なんやその可愛さ!」

「もうええわ!勝手にせえ!」

勘違いで他人のチョコ食べてしまうなんて、俺らしくないけど、そのおかげで神崎さんとこうしておれるんやな、と思うと、その勘違いに感謝しとうなった。


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