謙也君と虹
謙也の部屋の窓から、ぼーっと外を見ていたら雨があがって、日がさしてきた。
「あ、雨あがった。」
「んー、ほんまやな。お、虹出とるやん。」
謙也が指さす方に顔を向けると、綺麗な虹が空にかかっていた。
「あ、本当だ。綺麗だね、虹。」
写メ撮ろ、写メ!と携帯を探る謙也を見て、ちょっと笑いながら、口を開いた。
「小さい頃ね、虹の下に行ってみたいなって、虹のアーチをくぐってみたいなって思ってたんだ。」
そんなの無理なのにねー、と笑いながら言うと、謙也はこっちをじーっと見ていた。写メはもういいのかな?
「おっしゃ、俺が連れてったろ!」
「へ?ちょっと、謙也!?」
謙也は何を思ったか、いきなり私の手をひいて走りだした。
「ちょっと、さすがのスピードスターでも虹に追いつくのは無理だって!」
「ええから、ええから!」
初めは、無理だよ、帰ろうよ、と言っていた私だけど、笑いながら走る謙也を見ていたら、だんだん楽しくなってきて、一緒に笑いながら走った。
しばらく走って、私の息も結構きれた頃、謙也はゆっくり立ち止まった。
「ここ、橋?」
「せやで。さっき部屋から虹が見えとったあたりや!」
そっか。そういえば、このあたりだったかもしれない。
「でも、もうここには虹ないよ?ほら、また遠くにある。」
だから、やっぱり辿り着けないよ、と言おうとしたけど、謙也の笑顔に遮られた。
「今、俺の部屋から見たらな、ここに虹見えるやろ?せやから、あっこから見たら、俺ら今虹の下におるんやで!」
一瞬何を言われているのかわからなくて、ぽかんとした。
意味がわかった瞬間、なんだかとっても嬉しくなった。
虹の下に来られた、ということももちろんだけど、謙也が私の為に考えて連れて来てくれたのが、本当に嬉しかった。
「はっ、はは。そうだね。虹の下に来ちゃった。」
「ははっ!な、無理なんかやなかったやろ?」
そう言いながら笑う謙也の顔は、空に顔を出した太陽よりキラキラしてた。
「ありがとう、謙也。」
「おん!」