ちょっとずれてる白石君
「…また、入っとる。」
靴箱を開けて、小さくため息をついた。
最近立て続けに靴箱に入れられている毒草の写真。
しかもご丁寧に、毒草の名前と、どんな毒性があるかも書いてある。もし、これがなかったら、ただの植物の写真やのに。いや、写真だけでも結構えげつないのもあったけどね。
一体なんなんや。
「お、神崎おはよ!」
「…、はよ。」
うっわ、朝からテンション低っ!と言う忍足に靴箱に入っていた写真を見せた。
「ん?なんやねん、これ。花の写真?神崎が撮ったん?白ぅて綺麗やな。」
「一輪草。花期は4月から5月にかけて。草丈は20cmから25cm。食すと腹痛、吐き気、下痢、けいれんなどをおこす。毒草。」
写真についていたメモをそのまま読み上げると、忍足はぽかんとしか顔になった。
「なんなん、それ。」
「そんなん私が知りたいわ。最近なんでか立て続けにこんなん靴箱に入れられてんねん。ほんま誰や、こんなことしてくんの。」
「…いや、なんちゅーか、クラスにめっちゃ心当たりおるくない?」
「へ?いや、こんなんしそうな奴の心当たりとかあらへんよ。」
すごく言いづらそうな忍足に、誰や、と問い詰めると忍足はしぶしぶ口を開いた。
「…、白石。」
「呼んだか?」
「「うっわぁあ!」」
なんやねん2人してそんな驚いてー、と言う白石はいつも通りめっちゃ爽やかやった。こんな爽やかな白石が、こんなことするわけないやん。
「なあ、白石、神崎がな、変な写真入れられて困ってんねんて。」
忍足の、まさか自分ちゃうよな、と言う言葉に白石君は爽やかに、はははと笑った。
ほら、忍足のアホ。やっぱり白石なわけないやんか。
「おん、俺やでー。」
「へ?」
わけがわからなくて忍足を見ると、やっぱり、と言いながら口元を引きつらせていた。
「え、いや、これ白石が入れたん?」
「おん、せやで。」
「え、私、白石に嫌われるようなこと、なんかしたっけ?」
「へ?いや嫌ってへんで?」
じゃあなんでこんな毒々しいものを入れたんだ、と思いながら写真と白石君を交互に見ていると、白石君は少し照れたような表情で口を開いた。
「神崎、靴箱にさりげなく花とかの綺麗な写真入れられてたら、ラブレター入れられるよりなんやときめくって言ってたやん。せやからラブレターやのぉて写真入れてん。」
照れる白石君はレアやし、とても可愛い。
せやけど、せやけどね!言ってることとやってることのせいで台なしや!
「毒草でときめく人がどこにおるっちゅーねん!」
「ここにおるで!」
「アホや。」
私は白石君を放って教室に入った。
なんというか、つまりこの毒草の写真は、白石からのラブレターみたいなもんってことやんな?
ほんまアホや、白石。
でも、さっきまでは憂鬱の対象でしかなかった写真が、なんだか嬉しく思えてきてしまっているだなんて、私も白石の毒にやられているのかもしれない。
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