白石君とハーブティー
「けほっ、こほっ、」
「どないしたん、伊織。風邪なん?」
「んー、のど痛い。」
昨日夜ちょっと冷えたのに窓開けて寝ちゃったからかな、と思いながら答えると、白石君は、ちょっと待っとき、とだけ言ってどこかへ消えた。
「ん、これ飲みや。のど痛いんならエキナセアやで。」
すぐにどこからか戻ってきた白石君は、手にティーポットとマグカップを持っていた。え、なんだこれ。
「なにぼーっとしてんねん。熱まであるんか?」
白石君は私のおでこに触って、熱がないことを確認すると、ん、熱はないな、大丈夫や、と言って笑った。
「これ、くれるの?」
「おん、飲み。」
エキナ…、なんとかが何かはわからないけど、あったかい湯気を放つマグカップに誘惑され口をつけた。
あ、普通に美味しい。白石君がくれるからどんなのかと思ったら別に変なくせもないし。
「おいしいね。」
「せやろ?エキナセア、のどにええから、ちょっとは咳治まるで。ゆっくり飲みや。」
確かに、なんだかのどの痛みが優しく治まってきた気がする。
「ありがとう、白石君。」
「ええねん、ええねん。」
白石君はニコッと笑って空になったマグカップとティーポットを持ってどこかへ消えた。
結局、どこから持って来たのかはわからなかった。
そんなことがあった数日後、私は生理痛で苦しんでいた。
もう本当に痛い。なんなんだこの痛みは。
「具合悪そうやなぁ。」
私がお腹をおさえながら机に突っ伏していると白石君がやってきた。
生理痛です、なんて言いたくないし、どこかへ行ってくれないかな、と思ってお腹をおさえたまま黙っていると、白石君は本当にどこかへ行ってしまった。
助かったけど、なんかちょっとさみしい。
「伊織、これ飲み。」
「え、白石君?」
いつの間にか私の側に戻って来ていた白石君は、前と同じくティーポットとマグカップを持っていた。
「のど、痛くないよ?」
「ええから、ええから。飲んでみ。」
マグカップの中を覗きこむと、綺麗な赤い液体が見えた。
「…もしかして、ハイビスカスティー?」
どうしよう、確かハイビスカスって酸っぱかったよね、酸っぱいの私苦手なんだけど、と思いながら白石君を見ると、たぶん大丈夫やからまず一口飲んでみと笑った。
「ん、…あれ、おいしい。」
「ハイビスカスだけやなくてローズヒップもブレンドしとるから酸っぱさあんまないで。蜂蜜もちょっと入れたしな。」
伊織、酸っぱいん苦手やろ?と続けた白石君の優しさに感動しながら白石君特製のブレンドティーを飲み干した。あったかいものを飲んだからか、さっきまであんなに痛かったのに、少し生理痛がましになった気がする。
「お、ちょっと気分良くなったみたいやな。やっぱり生理痛にはハイビスカスとローズヒップやな。ビタミンもたっぷりやし。」
…、ありがたいんだけど、ちょっと微妙な気持ちになってしまった私は別に間違ってないと思う。
なんでこの人はこんな爽やかな笑顔で生理痛とか言うんだ!
でもおかげで少し気分が良くなったのは本当だから、小さな声でありがとう、と言っておいた。
そのまた数日後、なんか疲れたなーっと伸びをしていると白石君がやってきた。手にはなんだかお馴染みとなったティーポットとマグカップを持って。
「ん?今日はどこも痛くないよ?」
白石君は、ん、せやな、と笑った。
「でも、今日はよぉ先生の手伝いとかしとったから疲れたやろ?カモミール、癒されるで。」
綺麗な薄い黄色の液体に静かに口をつけると、なんだか、ほっとした気分になった。
「白石君、凄いね。いつもいつも、白石君がいれてくれたお茶飲んだら、なんだか元気になるよ。」
「おおきに。」
そう言って笑った白石君の笑顔は本当に優しくて、白石君の笑顔が一番の癒しだな、なんて思いながら、ゆるんだ口元を隠すようにカモミールティーにまた口をつけた。
prev next