謙也君とくしゃみ
「伊織、おはよ!」
「おはよう、謙…、へくしゅっ。」
「ん?風邪か?」
「へっ、くしゅ!へくしゅっ!」
くしゃみが止まらなくて返事ができない伊織を見てかわええなぁと思いながら笑っていると、伊織にぺしっと叩かれた。
「笑うな…、くしゅ、へくしゅ!ああっ、もうやめて!私の噂をするのはもうやめて!」
「ぶはっ!何言うてんねんアホ。」
いきなり両手を広げて変なことを言うので吹き出すと、伊織にぺしっと叩かれた。
「アホじゃないよ、謙也君!じゃあなんでこんなくしゃみが出るっていうんだ!全然とまんないんだけど!」
本気の顔で詰め寄る伊織がおかしくてまた笑っていると、謙也君はくしゃみの苦しみがわからない冷徹な人なんだ!と拗ねられた。なんやねんもう、アホかわええ。
「すまんすまん。」
「いいや、許さないよ、謙也君。」
伊織は俺からプイッと顔を背けた。
「すまんて。機嫌治してぇや。」
「ゆーるさーないー。」
「なあ、伊織、気づいとる?」
「え、何を?」
多分気づいてないんやろうなと思って、笑いを堪えながら口を開いた。
「くしゃみ、もう、止まっとるで。」
伊織は数秒、きょとん、としてから、あ、と短く声を発した。
今、言われて気づいたんやろな。
「ほんま、アホやなぁ。」
俺が笑いながら言うと、伊織は頬を少し膨らませて、俺の腕をぺしっと叩いた。
「もう、謙也君は私にアホアホ言いすぎだよ。」
だってかわええんやもん、しゃーないやん、と思いながら伊織を見とると、白石が笑いながらやってきた。
「伊織ー、ちょぉ耳貸しぃ。」
「あげないけど貸すだけならいいよー。」
白石ちょっと近づきすぎやない?と思いながら見ていると、白石に何か言われた伊織は急に顔を赤くさせた。
「白石、何言うたん?」
白石は笑うだけやったから、伊織に、何言われたん?と聞くと、少しどもりながら、偏った関西弁講座を受けただけ、と言われた。
「別に偏ってへんし。てか少なくとも謙也のんはそうやでー。」
「くっ、偏った関西弁講座ってなんやねん。ほんま伊織アホやなぁ。」
「あ、ああ、アホって、アホって言うなっ。」
いつもやったらアホって言うと怒って、ぺしっと俺を叩いてくるのに、何故か伊織は顔をさらに真っ赤にさせて、机に突っ伏した。
なんかかわええなーと思って笑いながら頭をわしゃわしゃすると、びっくりしたのかびくっと体を震わせたけど、手を振り払ったりはしなかったから、嬉しくなってまた笑った。
「あんな、伊織。関西弁ではアホって、好きって意味やねんでー。」
「なっ!」
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