木手君と流れ星
「こんな時間に何をしているんですか。」
夜、海辺に寝っころがっていると、頭上からいきなり声が降ってきた。
「あ、木手君だ。」
声の主が木手君だと気づいて、笑顔になると、木手君は私とは反対に不機嫌そうな顔になった。
「何を笑ってるんですか。」
このままいなくなっちゃうだろうなと思ったのに、意外にも木手君は私の側に腰掛けた。
「それで、何をしているんです?こんな夜遅くに女性一人で外を出歩くものではありませんよ。」
「流れ星探してたんだ。願いことしようかなって。」
「流れ星、ですか。」
そう呟いた木手君の声は、ちょっと固かった。
「木手君は流れ星きらい?」
そう言いながら、寝っころがったまま木手君を見ると、木手君は固い表情のまま空を見上げた。
「俺は流れ星みたいに流れて消えてしまうものになんて、願いはたくしません。」
そう言いながら、空の要、ただ一点を見つめる木手君の目は、一切揺るぎがなかった。
「木手君は強いね。」
「君が弱いだけじゃないですか。」
確かにそれもあるかもしれないな、なんて思ってちょっと笑った。
「何を願うつもりだったんです?」
「え?」
「流れ星に、ですよ。何か願おうとしていたんでしょう?」
どうしよう。言ってしまおうか。
適当にごまかしてしまおうかとも思ったけど、さっき木手君に弱いと言われたのを思い出して、ごまかすのを思い止まった。
私だって、強くなりたいから。強くなったからって、木手君に近づけるわけではないけど、それでも。
「木手君ともっとたくさん話せますようにって、願おうと思ってたんだ。」
まだ流れ星見つかってないんだけどね、と笑って、なんでもないことのようにさらっと言った。
笑われるかな?いや、何を馬鹿なこと言ってるんです、とか言われそうだなと考えながら木手君の次の言葉を待った。
あれ、無言だ。
どうしたんだろう、と上体を起こして木手君を見ると、木手君は空じゃなくて、私を見ていた。
「馬鹿ですね。それこそ、流れ星になんて願うことないでしょう。」
いつも通りの素っ気ない言葉。
でも、口調がいつもより少しあったかくて、なんとなく、話したいなら話せばいいでしょうって言ってくれてる気がした。
「うん…、うんっ。そうだね。」
それが嬉しくて、笑いながら何度も頷くと、木手君は、本当にかすかにだけど、笑ってくれた。
私の願いを叶えるのは、どうやら流れ星じゃないみたいだ。
もう一度空を見上げて、ちょっと笑った。
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