一氏君が羊を数える
ベッドの中、なんだか眠れなくて、ゴロゴロと寝返りをうった。
こんな時、いつもならまだ起きているお母さんと一緒にお茶でも飲んでたらすぐに眠くなっちゃうんだけど、今日はお父さんもお母さんもいない。
かわりに、お隣りのユウジ君が泊まりに来てくれてるけど、眠れないなんて、なんだか少し恥ずかしくて言いにくい。
しばらくゴロゴロと寝返りをうっていたけど、あんまりにも眠れないから、馬鹿にされるのを覚悟で隣の部屋で寝ているユウジ君を訪ねた。
「ユウジ君。」
控えめにノックして呼びかけると、中から扉が開いた。よかった、まだ起きてたんだ。
「なんやねん、伊織。はよ寝ェや。」
「なんか、眠れなくて。」
ユウジ君の顔を見たら安心して、ユウジ君のパジャマを掴んだ。
「こわい夢でも見たんか?」
「まだ見てないけど、なんか見そう。」
ユウジ君は、なんやそれ、と言って小さく笑うと、あくびしながらベッドに戻った。
眠いの邪魔しちゃったな。部屋に戻ろう。
「なにもたもたしてんねん。はよ来いや。」
へ?とユウジ君を見ると、一人分あけたベッドのスペースをポンポンとたたきながら、寝られへんねやろ?寝かしつくたるからはよ来い、と言った。
なんだかんだ言いつつも、やっぱりユウジ君は優しい。
ユウジ君の隣に横になると、当たり前だけどユウジ君の匂いがした。なんか落ち着くなー。
「羊が1匹、羊が2匹、」
「くっ、あはは、」
ユウジ君の隣なら落ち着くから眠れるかな、と思いながら目を閉じると、ユウジ君がいきなり白石君の物まねで羊を数えはじめたから、つい笑ってしまった。
「羊が11匹!羊が12匹!はは、早すぎて見えへんやろー!実はもう23匹目や!」
「ははっ、」
次は謙也君だ。
「31匹っス、32匹っス、はあ、羊とか別に何匹でもいいっスわ。」
「ふっ、あはは、」
さっきまでこわい夢見そうだな、なんて思ってたのに、ユウジ君のおかげでもう全然こわくないや。
ころころ変わるユウジ君の声に感動しつつ笑っていたら、すっごく馴染み深い大好きな声になった。
「羊が50匹、羊が51匹、」
ユウジ君の、声だ。
ユウジ君の声で数えられる羊を聞いていたら、すっごく安心して眠くなってきた。
ありがとう、という意図を込めて目の前にあるユウジ君の胸におでこをコンっとくっつけたら、ユウジ君は頭を軽くポンポンとしてくれた。
やっぱり1番安心するのは、ユウジ君の声だな、なんて思いながら、ゆっくり意識を手放した。
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