白石君とセールストーク
「あ、また隣やな、神崎。」
「本当だー。偶然だね。」
ほんまは偶然とちゃうんやけどな。
神崎がどの席になったかを素早くチェックして、神崎の隣の席のくじを持っとった奴に変えてもろたんや。んーっ、絶頂。
「もう隣になるの3度目だね。」
すごい偶然、と笑う神崎に、笑いかけながら口を開いた。
「こんなに続くってことは、偶然やなくて運命なんちゃう?」
よし、決まった。
「くっ、あはは!」
「え、なんでわろてるん?」
照れるかな、とか、俺のこと少しは意識してくれるかな、とかは思っとったけど、こんな楽しそうに笑われるなんて想定外やわ。
「ははっ、ごめんね、なんかセールストークでね、運命って言ったら女の子はおちやすいって聞いたの思い出しちゃって。この間もね鞄と靴買う時に、この出会いは運命ですよ!って言われて、つい買っちゃったんだ。」
神崎は、後から考えてみたら、靴と鞄に、そんな大事な運命使いたくなかったなー、と笑った。
「その靴と鞄気に入っとるん?」
「うん、気に入ってるよー。買ってよかった。」
「セールストークってわかっててものってみるもんやな〜。」
神崎は、そうだね〜、と笑った。俺は気づかれないように深呼吸をしてから口を開いた。
「ほな、こっちのセールストークにものってみィひん?」
「へ?」
「きっとがっかりはさせへんで。一緒に楽しいことして、見て、たくさん笑おうや。」
神崎は、どういう意味、というようにキョトンとして首をかしげた。
好きやから付き合ォて?って言っとるんやけど、と言うと、神崎のキョトンとしとった顔がめっちゃ驚いた顔に変わった。
「なあ、席替え、3回も隣の席やなんて、運命やで。」
神崎は徐々に顔を赤くさせた。口をパクパクしたから、何か言うんかな、と思ったら、いきなり机に突っ伏した。
「…べ、つに!白石君のセールストークにおちたわけでは、ない、からね!」
「わかっとるわかっとる、神崎はかわええなー。」
「う、るさい!ニヤニヤしないの!」
俺の前でこんな照れとる神崎ははじめてで、嬉しくて笑った。
とりあえず俺んこと意識するようになったんやから、こっからが正念場やな。覚悟しとき。
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