神尾君と乙女心
「神崎、またお菓子食べてる。」
「うっ!伊武君、うるさーい。」
ダイエットしよう、と宣言したのは昨日のことだけど、つい誘惑に負けてポッキーを食べていると、伊武君にじとーっとした目で見られた。
「昨日、明日からダイエットする、次こそはがんばるって言ってなかったっけ?」
「育ち盛りだからいいんです〜。」
「育ち盛り?横に?」
「縦に!伊武君のばか!」
もう伊武君なんて知らない!と思いつつも、やっぱり、ダイエット初日からポッキーはダメだよね、とポッキーの箱を机に置いた。
「伊武君、あげる。新商品なんだから、味わって食べてね。」
期間限定なんだからね、次食べようと思っても売ってないかもしれないんだからね、と言いながら伊武君にポッキーを差し出すと、神尾君がやってきた。
「よ、神崎!何?それ深司にあげんの?俺にもちょうだい!」
「いいよー。」
はい、と箱ごと渡すと神尾君は、え、と首をかしげた。
「いや、箱ごと貰おうなんてしてないぜ?」
神尾君にダイエットとか言うの恥ずかしいし、…もうお腹いっぱいなんだ、とか言おうかな。うん、そうしよう、と口を開いたはいいけど、伊武君に遮られてしまった。
「神崎、ダイエットだからいらないんだって。」
「伊武君のばかー!神尾君にダイエットしてるとか言わないでよ!」
「は?なんでそんなこと俺が気をつかわなきゃいけないわけ?というか、俺の前では普通にダイエットとか言ってるくせに、神尾の前だと言えないとかなんで?まあ、聞かなくてもわかるけど。神尾意識しすぎ。」
「わあ、もう伊武君!ごめん、なんかもう謝るからそのくらいにしてー!」
神尾君の前でこれ以上醜態をさらしたくないんだ!と伊武君に泣きついていると、神尾君はまだ首をかしげていた。キョトンとしてる神尾君もかっこいい。
「ダイエット?神崎そんなん必要ねーじゃん。」
「いや、あるからするんだよ。」
神尾君、なんて優しいんだ!
「いやいや、ないって。じゃ、ちょっとこっち来てみ。」
なんだろう?と思いながら、席を立って神尾君の近くによると、神尾君の腕が私に伸びてきた。
え、いや、まさかお腹つかまれる?
うわぁあ!私のばか!こんなことならもっと真剣にダイエットしておくんだった。
「、んしょっと。ほら、軽いじゃん。やっぱダイエットなんていらねーって。ん?てか神崎、なんかいい匂いすんなー。」
「、っ!」
神尾君が、大好きな神尾君がっ!わ、私を抱き上げたよ!しかもお姫様抱っこ!なんで、どうして!
「…、神尾、何してんの?」
伊武君は珍しく驚いてるみたいだったけど、私も声も出せないくらい驚いた。神尾君の腕の中で、いったいどう答えるんだ、と耳に集中していると、神尾君は、爽やかに笑いながら口を開いた。
「いや、神崎がダイエット必要ねーっつっても信じねーから、持ち上げて軽いっつったら信じるかなーって。」
んで、信じたか?と聞いてきた神尾君の顔がびっくりするくらい近くて固まっていると、神尾君は、信じねーと降ろさねーぞー、と笑った。
至近距離の神尾君の笑顔!なんかもう素敵すぎて心臓に悪いです!
なんとかコクコクコクと必死に頷くと、神尾君は、よしっ、と言って降ろしてくれた。
「わ、わわ私、用事があったんだった!ま、またね!」
「おう、またな!」
用事なんてないけど、もうこれ以上神尾君の前にいられない!と、私は教室から急いで出た。
恥ずかしかったけど、すっごくすーっごく恥ずかしかったけど。でも、それ以上にドキドキして、もう心臓がどうにかなりそうだった。
神尾君、やっぱりかっこいい。
「神尾、あーいうことナチュラルにするんだ。」
「へ?いや、神崎にしかしたことねーけど?」
「神尾、隣のクラスなのに、休み時間の度に俺のクラス来るよな。」
「んー?そういえばそうかもなー。」
「…神尾って、馬鹿だよな。」
「はっ?なんだよ深司ー!」
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