銀さんと電話
休日の朝、ぐっすりと寝ていたら枕元の携帯が着信をつげた。
誰だ、こんな時間に。いや、たぶんこんな時間って言うほどは早くないんだろうけど、休みの日くらいゆっくり眠りたい。
まだ寝てたのに、って恨み言の一つでも言ってやろうと、開いたまま枕元に置いていた携帯(癖でまた開いたまま寝てしまったみたいだ)のボタンを目をつむったまま押した。
「あーい、もしも〜し。」
「あ、神崎はんか?」
…あれ、友達にしては、声、低い。
「あー、石田やけど。」
「銀さん!?、じゃなくて石田君!?」
ごめん!寝ぼけててついいつもの癖で銀さんって呼んじゃった!と謝ると、銀さんは受話器の向こうで、ははと笑っていた。
「いつも銀さんって呼んでくれとったんか?知らんかったわ。慣れとんのやったら銀さんでええで。」
私アホじゃないだろうか。何いつも脳内では銀さんって呼んでたことばらしてるんだ!
あ、でもおかげで銀さんって呼んでいいってゆるしをもらえたんだから、よかったかも。寝ぼけた私、グッジョブ!すっごく恥ずかしいけどね!
「あれ、というか、朝からどうしたの?何か用事?」
「あれ、神崎はんが用事あったんかと思って電話してんけど。」
勘違いやったか?と不思議そうな声を出す銀さんに、私も、え?と聞き返した。
いや、銀さんとはいつもいつでも話したいと思ってるから、用事があるといえばあるけど。え、この思考銀さんに読まれてるの?銀さんすごい。
「昨日、わしが寝てから珍しく神崎はんから着信入ってたから、なんか用事あったんかな、と思ったんやけど。」
え、なにそれ。
銀さんに、ちょっと待ってて、と言ってから携帯の発信記録を見ると、確かに残っていた。私が昨晩すでに寝ていた時間の、銀さんへの発信履歴が。
「ぎ、銀さん。」
「なんや?」
「ごめんね、あの、私、携帯開いたまま寝る癖があってね。」
何を言い出すんだろう、と不思議そうにしながらも、銀さんは、うん?と続きを促した。
「それで、寝てる時に、寝ぼけてボタン押して、銀さんに電話かけちゃったみたい。ごめんなさい。」
いきなり夜遅くに電話をかけておいて、寝ぼけてましたってなんだそれ。
せっかく、なんとか理由つけて銀さんのアドレスと番号ゲットしたのに(い、石田君!なんかいろいろ連絡事項とかあると思うし!携帯、えっと、あの携帯、)(せやな、携帯番号交換しとこか。)(、っ!うんっ!)初めてかけた電話がこれってどうなんだ。
「くっ、ああ、せやったんか。」
「ご、ごめんね!」
笑ってくれた銀さんにちょっと安心した。
よかった、怒ってないみたい。銀さんやっぱり優しい!
「ええねんええねん。神崎はんから電話きとって嬉しかったから、間違い電話でちょォ残念やったけど。」
銀さんは、小さく笑ってから、せやけど、朝から神崎はんと話せたから、むしろよかったくらいやわ、と続けた。
「ほな、また学校でな。」
「え、うん!また学校で。」
私はまだ寝ぼけているんだろうか。
手元の携帯を見ると、ディスプレイが、銀さんとの通話を終えたことをつげていた。
夢じゃ、ない。
「う、わぁああ!」
恥ずかしいと嬉しいの感情が限界を超えてたえられなくなって、私は携帯を握りしめたままベッドの上をごろごろ転がった。
今度はちゃんと電話かけよう!学校でも銀さんって呼んでみよう!と思いながら、さっきまで私と銀さんをつないでくれていた携帯を見てた。
一人でにやけて恥ずかしくなったけど、それよりももっともっと嬉しくなった。
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