白石君とミルクティー
ミルクティー色の髪の毛が視界に入って、私はそっちを見た。
「ミルクティー、いいな〜。」
「なんや、神崎。お前昔、紅茶には砂糖もミルクもレモンも入れへんって言ってたやないか。紅茶はストレート以外邪道やなかったん?」
私の小さな呟きが聞こえたようで、忍足が話しかけてきた。
「いいの、ミルクティー好きになったの。ミルクティーばんざい。」
実は苦手だったミルクティーも、白石君を知ってから好きになった。
だって、好きな人の色だから、とか、なんて乙女思考だ、私。
「へー、そうやったんか。」
「そうそう。色綺麗だし。」
「まあ、そうやな。(前は紅茶の色が濁るからいややって言っとったよな)」
「なんか優しいし。」
「まあ、そう、かもな。(紅茶に優しいも優しくないもあるんか)」
「いつも一所懸命で努力家だし。」
「ちょ、ちょォ待てェ!」
「何、忍足。なんでもかんでもツッコめばいいってもんじゃないんだよ。今別にボケてないし。」
まったく、吉本ばっか見てないで笑点もたまには見な、と呆れながら言うと、忍足はいやいやいやいや、と言った。
「え、今の紅茶の話やんな?優しいとか努力家とか、そんな紅茶あんの?」
「…あるある、多分ある。」
無意識で白石君の好きなとこを言っていたみたい。恥ずかしいな、私。
「何話しとるん?楽しそうやなぁ。」
「あ、白石。聞いてや、神崎がな、ミルクティーが色綺麗で優しくて一所懸命で努力家やから好きやって言うてんねん。そんな紅茶あるか?」
「ちょっ、忍足のばか!」
関西人にばかはアカンばかは!とわめいている忍足よりも、今は白石君が気になる。
どうしよう、忍足と違って白石君は鋭いから気づいたかもしれない。
「へぇ、神崎はミルクティー好きなんや。」
「う、うん。」
冷や汗をかきそうになりながらも、なんとか平静を装った。大丈夫、いつもの私、いつもの私。
「俺もミルクティー好きやねん。美味しい店知ってんねんけど、今度一緒に行かへん?」
一瞬何を言われてるかわからずにフリーズしたけれど、白石君の、アカン?という言葉で意識がはっきりした。
「い、行く!」
「ほな、決まりやな。」
嬉しい、どうしよう!ミルクティー好きになっててよかった。
「え、白石、ミルクティー好きやったん?こないだ、ミルクティーとかアカン、なんで紅茶にミルク入れんねん、無駄や、って言ってたやないか。」
なんやねん、二人ともいきなりミルクティー好きになりよって、という忍足の言葉に不思議に思っていると、白石君が口を開いた。
「好きな子が好きな飲み物なんやから好きになるに決まっとるやん。てか、やっとデートまでこぎつけたんやから邪魔すんなや、謙也。」
忍足は、おっ、お前神崎のこと、すっ、すすす!と言いながら顔を真っ赤にさせた。
「好きやで。はは、なんで謙也が顔赤ォしてんねん、別に可愛ないで。あ、神崎も顔赤いな、かわええ。」
予鈴が鳴り、白石君は、ほな、デート楽しみにしとるわ、と言って、自分の席に戻った。
「お、おおお忍足!どうしよう!デートだって、デート!」
「あ、あああアホ!んなこと俺に言われても、どないせーちゅーねん!」
わたわたしながら白石君の方を見ると、私を見て笑っていた。
「(ああ、焦っとる。ほんま神崎かわええな〜。)」
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