神尾君と登校時間
「はあ〜、今日もかっこいいな、神尾君。もう神尾君が眩しくて前が見えない。」
登校中神尾君を見つけて感嘆のため息をつくと、隣から呆れたため息が聞こえた。
「まったく伊織は馬鹿だよな。いつもいつも神尾がかっこいいかっこいいって。というか前見えてないならなんで歩けてるわけ。」
まだまだ続きそうなぼやきをやめさせる為に深司の頭を、ていっと軽くチョップした。
「痛い。」
「ごめんごめん。」
笑いながらも謝ると、片方だけあがっていた眉が下がったから、一応機嫌はなおったみたいだ。
神尾君に視線を移すと、イヤフォンで何か聴いているようで、歩きながら小刻みに揺れていた。
「神尾君がリズムにノッている!素敵。」
「ほんと伊織の趣味はよくわからないよな。あんなのただ揺れてるだけじゃないか。なんて言うか、通行の、邪魔。」
ムッとして深司を見ると、ほんとのこと言っただけだけど?と言われた。
「〜っ!深司の馬鹿、アホ、ぼやき!」
「馬鹿は伊織だろ。というか最後のぼやきって別に悪口じゃないよな。ボキャブラリー少なすぎ。」
「ちょっと深司ストップ!」
言い返してやる!と意気込むと、いきなり私をかばうように、神尾君が割り込んできた。
「・・・はあ。」
「はあ、じゃねーって。なんでいつも気づいたら喧嘩してんだよ。」
幼なじみなんだろ、お前ら、と言いながら深司と私を見比べる神尾君を見て、もう恥ずかしくて全力で逃げ出したくなった。
「別にいつもじゃないし。というか、神尾がいない時は喧嘩してない。」
「ちょっと、深司!」
確かにそうだけど!そんな意味深に言わないでよ!
「へ、そうなのか?」
「いや、えっと、あの。」
キョトンとして聞いてくる神尾君も素敵!
じゃなくて、神尾君が私を見ている!
もう無理、もう顔から火が出る!
「何猫被ってるんだよ。いつもは神尾君神尾君うるさいくせに本人前にしたら何も言えないなんてほんとに馬鹿だよな。というか意気地無し。」
「うっ、わああぁあん!深司のばかぁあ!」
神尾君が私を見てくることとか、私がいつも神尾君のことを話題にしていることを深司がサラッとばらしたこととか、なんだかもういっぱいいっぱいで、私は学校に向かって走りだした。
後ろから神尾君の笑い声が聞こえて、神尾君はやっぱり笑ってるのが一番かっこいいなって思った。
「くっ、やっぱり神崎なんかおもしれーよな。こないだもな、売店でパン買おうとして100円足りねーって言ってたら、よかったらこれ使って!、って貸してくれたんだけどよ、・・・くっ、50円玉だったんだよ。結局足りねーって。しかも気づかねーで行っちまうし。もう俺おかしくておかしくて。そのあとお礼っつってジュース持ってったらな、」
「はあ、まったく、お互いいない時に話題にしないでいる時に話せよ。間に挟まれるこっちの身にもなってほしいよな。」
「ん、なんか言ったか、深司?」
「・・・別に。」
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