謙也君と早朝の教室
朝早く起きたから学校に早く来た。
早起きは三文の得とか言った奴は誰だまったく。
早く来たせいで教室の鍵は空いてないし、その鍵を職員室に取りに行ったら担任に見つかって教室の花の水やり頼むな、あとこのプリント10枚セットでクラス全員分綴じといて、となぜか雑用頼まれるし、ほんと得なんて、
「おっ、神崎やん!」
「お、したり君!」
おはよー、早いなと言ってくる忍足君に、忍足君も早いね、と言うと、今日朝練ないの忘れとってん、と笑いながら言われた。
「神崎何やっとるん?」
「先生に頼まれて。今度の社会科見学のしおりみたい。」
あー、なるほどなー、と言いながら忍足君は自然に私の前の席に腰掛けた。
「ホッチキスで二カ所とめるだけやんな。俺も手伝うで。」
「ありがとう!」
社会化見学どこ行くんやったっけ、タコ焼き工場だってさ、へータコ焼き食べさしてくれるんやろか、食べられたらいいね、俺タコ焼き焼くスピードも早いんやで!、いいな、見てみたい!、おう今度食べさしたるわ!、なんて普通の会話でも、忍足君としているだけで特別なものに思える。
早起きが三文の得だって言った人!三文がいったいどのくらいの価値か知らないけど、もうきっと三文も十文も得してるよ、ありがとう!
「そういや、早起きは三文の得って、ほんまなんやな〜。」
「ほんとにね!・・・え?」
ちょうど思っていたことを言われて力強く頷いてしまってから、あれ、忍足君も何かいいことあったのかな、と手元のプリントから目の前の忍足君に顔を移した。
「ほ、ほら、はよやってまうで!」
「そ、そうだね!」
ちょっと顔が赤かった忍足君に、なんだか私まで照れてしまって顔に熱が集まってくるのを感じた。
忍足君も同じこと考えてくれてるんだったらいいのにな、なんて思いながら、緩む頬を抑えた。
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