short | ナノ


独り占めしたい白石君


「謙也、そろそろええかな。」

「いや、やめとき。」

「さよか。」

謙也は、おん、と頷いてから、ボソッと続けた。

「てか、このやり取り、この数分の間にもう9回目やねんけどな。次でもう二桁や。」

「9回か、…よう9回も我慢したな、俺。ほな行ってくるわ。」

「あー、もう、とりあえず落ち着きて!」

謙也になだめられ、立ち上がりかけた腰を、また椅子に落ち着けた。

視線は変わらず、教室の隅にいる伊織に向けたまま。

俺のがんばりのかいあって、なんとか伊織の彼氏ポジションについとる。付き合い初めてまだそんなにたっとらんし、いわゆるラブラブ期なはずや。(まあ、俺の中では年がら年中ラブラブ期やけど。)

「それなのに、なんでっ、…なんで伊織は俺やない男と話してんねん!おかしいやろ。」

「おかしいんは自分の頭や。よぉ見てみぃ。神崎、佐倉に委員会の伝達しとるだけやん。」

謙也に言われんでも、そんなんわかってる。伊織が昼休みやのに俺んとこに来ーへんで他の男とおるんは、昨日風邪で休んだ同じ委員会の佐倉に、昨日の委員会会議の内容を伝える為であって、俺より佐倉が好きやからなんて理由では断じてないっちゅーんは、しっかりわかっとる。

「せやけど、ちょっと佐倉近すぎひん?なあ、近づきすぎやんな?…ちょっと佐倉クンとお話してくるわ。」

立ち上がりかけると、肩の上を両手で押さえ付けられ、無理矢理椅子に戻された。

「せやからさっきからやめぇ言うてるやろ。ちゅーか、なんかクン呼び怖いわ!」

「なんでなん!俺めっちゃ我慢したやん。」

謙也は肩を落として、ため息をついた。俺はこんなに必死やっちゅーのに失礼なやっちゃな、なんて思っていると、謙也はため息と同時に言葉も吐き出した。

「あんな、そうやってお前が『お話』する度に、その男子から、『白石って、ええ奴やけどちょっとめんどいな、ええ奴やけど』って疲れた目で言われる俺の身になってみぃ。」

「そんなたいした話はしてへんて。」

ほんまか?と疑うような目を向けてくる謙也に、ほんまやて、と頷いてから続けた。

「俺と伊織が付き合うまでのあれこれとか、二人きりの時の伊織がどんなに可愛いかとか、初めてデートした時、伊織が緊張してもて可愛かったとか、その緊張をほぐそうと、いつも通りでええねんでって言って笑った時に、ありがとうってはにかんだ顔が本当に可愛かったとか、…ほら、伊織が可愛いてことくらいしか言うてへん。」

「せやな、内容は平和やな。(まあ、ノロケなんて聞きたないけど。)」

「せやろ?」

「せやけど時間が問題やねんて。何が悲しゅうて、人のノロケ数時間も聞かされなアカンの?もう地獄や。」

せやから、もう『お話』するんはやめとき、と言われ、机に片肘をついて顎をのせた。

「…やって、しゃーないやん。」

「なにが?」

「ほんまは伊織と話さんとってとか言いたいけど、そんなことでけへんってわかるし、伊織やって、そんなこと俺が思っとるって知ったらきっとひくし、迷惑やろし。」

「まあ、せやろな。」

「せやけど、八つ当たりなんてしたないし。」

「うんうん、わかるわ。」

「せやから気ぃすむまで、俺が伊織をどんなに好きか聞いてもらうことにしてん。」

「いきなり飛躍したな。…まあ、そういうとこが『めんどいけどええ奴』なんやろな。」

あー、はよ委員会の話終わらへんかなと伊織を見ていると、ちょうど話を終えたらしい伊織が近づいてきた。

「白石君、お昼まだ食べてない?一緒に食べない?」

「おう、一緒食べよやー。」

今日は無理かと思っとったから、伊織と一緒にお昼食べられて嬉しいわ。

「ふふっ、白石君とお昼一緒できて嬉しいな。」

思っていたのと同じことをはにかみながら言われ、少し驚いた。と同時に、さっきまでちょっと荒んどった気持ちが、ふわーっとあったかくなった。伊織も、お昼一緒に食べるのを嬉しいって思ってくれるくらい、俺んこと好いてくれてんねや。

「俺、伊織んこと好きで幸せやなー。」

しみじみとそう言うと、伊織は、何言ってるの、と顔を赤くさせた。

「伊織可愛い、りんごさんみたいやな。」

「う、うるさいなー、もう。」

伊織は真っ赤な顔のまま、拗ねてプイと横を向いた。あー、もう、可愛い。

伊織が俺だけに見せてくれる表情や。
普段の伊織は独り占めでけへんけど、こういう時の伊織は独り占めやな、なんて思った。





笑かしたモン勝ち企画

雪羽さんのリクエストで「完璧な彼氏でありたいために嫉妬を隠そうとするけど……みたいなお話」でした。

リクエストありがとうございました!


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