一氏君のプロポーズ
最近、仕事で忙しいらしく、ユウジとはなかなか連絡がとれない。ちゃんとご飯は食べてるんだろうか。もうすぐ、私の誕生日なんだけど、たぶん忘れてるだろうな。そんな心配半分、不満半分な気持ちで携帯を見ていると、携帯がブルッと震え、ユウジからのメールを告げた。
メールのタイトルはなく、本文は絵文字も顔文字もなく、シンプルに、「誕生日、四天宝寺ホテルのロビー、夜7時」とだけ書いてあった。
何、この一方的なメール、と思いつつ、誕生日を覚えていてくれたことが嬉しくて、顔がにやけた。忙しいのに、ちゃんと覚えてくれてたんだ。
ユウジにあわせて、了解、とだけシンプルに返事しながら、にやける頬をおさえた。
*
約束の時間15分前に四天宝寺ホテルに着くと、珍しくユウジが先に着いていた。
「私よりユウジが先に来て待ってるとか珍しいね。」
笑いながら言うとユウジは、伊織の誕生日やし、と笑って、おめでとさん、と言ってくれた。
「プレゼントちょっとかさばるモンやから、上に置いてあんねん。部屋行くで。」
ホテルのレストランでディナーするだけかと思ってたんだけど、部屋も取ってたんだ、と少し驚いた。ユウジに手をひかれて乗ったエレベーターは、窓がガラスになっていて、外の夜景がよく見える。だんだんと地上が遠ざかっていくのをぼーっと眺めていると、着いたで、とユウジに手をひかれた。
カードキーをさし、ドアを開けたユウジについて中に入ると、ベッドの上に両手でも抱えきれなさそうな大きな箱が置いてあった。
「お前にめっちゃ似合う服、作ってきてん。yuji.hブランドの特注品やで。」
私が箱の大きさに驚いているのを見て、ユウジはニッと笑った。そっか、これはユウジがデザインして作ってくれた服なんだ。どうしよう、すごく嬉しくて、顔にやける。
「えーじゃあ、似合わなかったらデザイナーのyujiさんに文句言わなきゃ。」
「おう、言えるもんなら言ってみぃ。」
軽口を叩きあいながらラッピングされた箱をゆっくりほどいた。ユウジは服飾のデザインや裁縫だけじゃなくて、こういうラッピングも昔からうまかった。センスがいいんだろうな、やっぱり。
でも、たまに笑いに走りたがるから、もし中に着ぐるみとか入ってたらどうしよう、なんて内心笑いながら箱を開けて、中身を見て固まった。
「これ、」
中に入っていたのは、純白の、レースをさりげなくあしらった、ウェディングドレスだった。
びっくりしすぎて、なんて反応したらいいのかわからずユウジを見ると、ユウジはたまに見せる優しい笑みをしていた。そのユウジの笑顔と、手の中のウェディングドレスを見て、いろんな感情がわきあがってきて、感極まって涙があふれてしまった。
「似合う、かなぁ、私に。」
泣いているせいで、声が震えてしまった。
「似合うで、せやからこれ、俺んために着てや。」
涙を拭いながら言われ、顔をあげると、優しく笑うユウジと目があった。
「…はいっ。」
返事をしてから、ユウジに抱き着いた。飛びつくような勢いだったけど、ユウジはよろけたりせずに、しっかりと受け止めてくれた。
「おおきに。」
優しくて嬉しそうな声を聞いて、私はこの人が、すっごく好きなんだな、なんて、いまさらながらに、心から思った。