幸せ連鎖な謙也君
あ、神崎なんか楽しそうや。何話してんのー、なんて、ノリで混ざれたらいいんやけど、神崎の前やとがっちがちになってもてでけへん。はあ、とため息をつくと、それを聞き付けた白石がくるっ席を後ろに向けて、俺の肩に手を置いた。何も言わんでも俺の気持ちはわかっとるっちゅーことか、無言で慰めるとか友達思いなやつやで、と少し感動したのもつかの間、白石はにぃと口の端をあげた。
「第1回、謙也の片思い会議はーじまーるでー。」
「はーじまーりまーす。」
「うぉわっ、いきなし出てくんなや財前!3年の教室になんでお前がおんねん!てかなんやねん、その会議!」
白石が会議の始まりを告げると、ぬっと俺の後ろから出てきた財前が、棒読みでそれにのっかった。てか、ほんまなんやねん、片思い会議て。これ絶対おちょくっとるやろ。
財前は、謙也さん声おっきいっス、と言いながら、嫌そうに耳を手で押さえてから、口を開いた。
「ええやないですか、ここに俺がおっても。昼休みやねんから。」
「ええとか悪いとかやなくて、な、ん、で、おるんかっちゅーてんねん。」
さっきより少し声を押さえて聞くと、財前は、これ、と自分の携帯を示した。
「白石部長から、おもろい話すんでーって召集かかったんで。」
「人の恋路をおもしろがんなや!」
「え、だっておもろいやん。」
「はい。」
なんでおもろがったらアカンの、みたいな表情をわざとらしく作る白石に、真顔で頷く白石。アカン、もう脱力する。
「もう、ええわー。知らん、お前ら。勝手にせぇ。」
机に肘をついてふて腐れると、白石が、神崎ー、と少し大きな声で呼んだ。うわ、アホ、神崎来てまうやんけ!
肘をついたまま固まっていると、なにー、と少し不思議そうに答えながら神崎がやってきた。アカン、近い、心臓が!
「あんな、水族館のチケットの割引券があんねん。」
「あー、ジンベイザメいるとこだね。」
ジンベイザメて、ジンベイザメてなんやねんそのチョイス。そこは女子的にはペンギンとかラッコとかちゃうん。ああ、もう、アカン、つぼや、ほんまつぼや、神崎。
平静を装いながら一人で悶えていると、財前が、謙也さんぷるぷるしててキモイっすわ、と小さく呟いた。ひどい。
「でな、ここに、今度行かへんかなーって思って。」
な、なに言うてんねん、白石はー!
くわっと目を見開いて固まった。神崎と白石が、水族館デート?なんでやねん!いやいや、ほんまなんでやねん!
「えっと、うーん、また機会があったら、」
あれ、神崎、なんか断ってへん?
まさか白石が断られるとは思ってなくて、びっくりして神崎と白石を見た。
しどろもどろで断ろうとする神崎をさえぎって、白石は楽しそうに笑った。
「あ、でも俺、今週末予定あるんやったわ。この割引券、今週末までやねん。せや、謙也、水族館好きやったよな。神崎と一緒に行ってきたらええんとちゃう?」
「行く行く!行かせていただきまっす!」
水族館、特別に好きなわけとちゃうけど、全力で好きになったわ、今!
あ、でも、神崎さっき断りかけとったよな、とへこみながら神崎を見ると、神崎は少し驚いたような顔をしながら、興奮ぎみに白石からチケットの割引券を受けとっていた。
「ありがとう、白石君!私水族館大好きなの!」
「へぇ、神崎水族館好きやったんや!俺もめっちゃ水族館すっきやねん!」
「うん、いいよね、水族館て!」
じゃあ次の日曜、駅前に11時と約束をかわしてから、神崎はチケットの割引券をしっかりと握りしめて友達のもとに帰って行った。
「うわー、もう、白石おおきに!お前、めっちゃできるやつやな!水族館デートやで、神崎と水族館デート!」
嬉しくてだるーんと机に突っ伏すと、白石は楽しそうに笑った。
「神崎さん、最初俺が誘った時は断ろうとしとったんに、いきなりのり気になったな。」
「せやなー、なんでやろなー。ま、女心と秋の空っちゅー話やなー。ほんまよかったわー。しゃーわせやー。」
にやけ顔を抑えもせずにそう言うと、白石と財前に、気づけやアホ、ほんまアホっスね、とため息をつかれた。なんやねん、せっかく人が幸せにひたってんのに。ああ、もう楽しみや。ジンベイザメを見て笑う神崎を想像して、顔がまたにやけてしまった。