日吉君をずっと見てる
私の額につたう汗は、決して暑い陽射しのせいだけではない。目の前にいる日吉に、一体なんと声をかければいいのか、わからないんだ。
「あ、あの、日吉!」
無言の空間を破りたくて、半ば叫ぶような声で日吉の名前を呼んだ。日吉はスポドリを飲むのをやめて、感情の読めない無表情でこちらを見た。
「なんだよ。」
「えっと、だからさ、あの、」
だめだ。こういうとき、なんて言ったらいいのか、私にはわからない。
悔しくて、下唇を噛み締めた。でも日吉は、私よりもずっとずっと悔しいはずだ。氷帝に入ってからずっと応援してきたテニス部。まさか、こんなところで負けるなんて、誰も、想像してなかったんだ。
日吉は、下唇を噛み締めて俯いた私の肩にポンッと手を置いた。
「もう、負けない。絶対に。」
「っ、…うん!」
力強い日吉の言葉に、力強く頷いた。
「日吉、好き、大好き!」
「…はっ?」
「私は日吉が大好きなんだよ。日吉が頑張ってるとこずっと見てきたんだよ!だからさ、日吉が負けないって言うなら、きっと負けないんだと思う!」
全力で、叫ぶように気持ちを吐き出すと、日吉は一瞬ポカンとしてから、すぐに、ぶっと吹き出した。
「くっ、お前、馬鹿だろ。」
「え、まあ、そうかもー。へへ。」
日吉が笑ってくれたことが嬉しくて、馬鹿なんて言われたにも関わらず笑っていると、気色悪い、と頭を叩かれた。痛い。でも、にやけ顔はやめられない。
日吉は、自信と野心がみなぎる瞳で私を見た。
「見てろよ、これからも、ずっと。」
「あったりまえだよ!」
見てろよ、なんて言われなくても、私の目の日吉レーダーはいつも日吉を追っているんだから。
私が日吉にしてあげられることなんて、たぶんないに等しいけどさ、
「日吉、大好き!」
「くっ、ばか。」
私が大好きって言うだけで、笑ってくれるなら、私の存在は、それだけで価値のあるものな気がするんだ。
これからも、ずっとそばで笑顔を見せてね、日吉。