財前君とお部屋デート
今日は財前君と久しぶりにデート。久しぶりなのは、財前君の部活が忙しいからっていうのもあるけど、大半の理由は私が体調を崩しがちなせい。
デート直前に体調を壊して寝込んだことなんて、もう数えきれないくらいで、自分が情けなくなる。でもそうやって部屋で落ち込んでいると、決まって財前君が林檎とかを持ってお見舞いに来てくれるんだ。室内デートもええなって言いいながら。
でも今日は体調もわりと大丈夫だから、久しぶりに外で待ち合わせのデート、…のはずだったんだけど、待ち合わせ場所から財前君が直行したのは財前君の部屋。
今日もお部屋デートなのかな。カフェとか行きたかったのにな、と思いながら財前君の部屋で一人待っていると、甘い香りとともに財前君が入ってきた。
「ん、あったかいココアいれてきたで。マシュマロつき。」
「わあ、ありがとう。」
息を吹きかけて冷まし、口をつけたそれは、私好みの味だった。美味しいねと言ったら、財前君は、いや、甘すぎやわ、と片方の眉を下げて笑った。
自分で作ったんだから自分好みにしたらいいのに、私の味覚に合わせて作ってくれたのが嬉しくて、ふふ、と笑った。
「大丈夫?甘すぎない?違うのいれて来ようか?」
そう尋ねると、立ったままだった財前君は私の隣に腰掛けた。
「一緒のん飲みたいから、これがええ。」
「じゃあ、次の時は、私が財前君の好みの味のを作るね。で、それをまた一緒に飲むの。ね、楽しそう。」
「じゃー、ブラックコーヒーで頼むわ。」
にやっと笑った財前君にそう言われ、思わず、うっとつまると、冗談や冗談と笑われた。
「せや、こないだ見たいっちゅーとった映画のDVDあるけど、見る?」
「『アメリ』?見る見る!」
おし、じゃあちょっと待っとき、と言いながら、財前君はDVDをセットした。ただそれだけなのに、機械を触る財前君って、なんだかかっこいい。
やっぱこの映画音楽ええよな、あ、このシーン好き、とかぽそぽそ呟く財前君の声を聞きながら見る映画は、いつもよりずっと楽しかった。
「クレームブリュレをスプーンでパリッて割るの、なんか楽しそう。私も、あれやりたいなー。」
映画を見終わり、映画の主人公の女の子がしていたシーンが印象的で、スプーンを持つしぐさをしながら、そう呟いた。
「ほな今度ケーキ屋に買いに行こか。」
一緒に食べることを当たり前のように言われて嬉しかったけど、外で食べるんじゃなくて、やっぱり買ってきて部屋で食べるんだ、とちょっとへこんでしまった。外でデートとかも、してみたいのにな。
「ねえ、どこか行かない?」
「嫌や、外寒いし。」
窓の外を見ると、冷たそうな風が木を揺らしていた。確かに、こんな寒空の中歩いていたら、またすぐに体調を壊してしまいそう。
自分が寒いから嫌だみたいな言い方をしてるけど、私に気をつかってくれたんだろうな。なんの気兼ねもなく、楽しくデートしたいのにな。
ごめんね、と小さく謝ると、隣に座っていた財前君は、私の頭に手を回して財前君の肩にのっけた。
「一緒におるんが一番嬉しいんやからええやん。こうやって部屋ん中で一緒の飲み物飲んだり、話しながら映画みたり。伊織は俺がおるだけじゃアカン?」
耳が財前君にくっついているおかげで、財前君の声が、直接体の中に響いた。財前君の声って、すごく落ち着く。
「ううん、十分すぎるくらい、嬉しい。」
そうだよね。可愛いカフェも、遊園地も、水族館も、財前君が隣にいるこの場所に比べたら霞んでしまう。
「よかった。俺と一緒やな。」
隣にいるのが財前君だっていうだけで、私にとったらどこだって最高のデート場所なんだ。