一氏君と手作りプラネタリウム
「手づくーりプラネタリーウム。」
「何してんねん。」
日曜日、部活が終わって廊下を歩いている時に、美術室から聞こえる物音が気になって中を覗いたら、神崎が歌いながら何かを作っていた。
「わっ、一氏君!」
「何焦ってんねん。」
なんかやましいもんでも作っとったんか、と言うと、違うよ、これ作ってたんだ、と俺に見せてきた。
厚紙に穴がたくさん空いていて、穴の横には小さな文字で何かの名前が書かれていた。ベガ、アルタイル・・・、
「ああ、プラネタリウムか。」
「そうだよ。私美術部だから、まあ、今日は休日で自由参加だから私しかいないけどね。」
神崎の手元の机には星座の本がいくつか開いて置いてあった。
「へえ、ちゃんと星の位置調べて作っとるんか。本格的やな。」
なるほど、と思って、それで星の名前までちゃんと書いてあったんやな、と言うと神崎は急に焦ったように、俺から作り途中のプラネタリウムを取り上げようとした。
「ひ、一氏君、それ返して、まだ作り途中だし。」
「ケチケチすんなや。」
必死で取り返そうとする神崎がなんかちょっとかわええなあ、と思ってひょい、ひょいとよけていると、神崎は顔を真っ赤にしながら、ダメなものはダメなのーっ!と言ってきた。
「なんやねん。そんな恥ずかしいもんでもないやろ。」
ちょっと笑いながら手元のプラネタリウムを見ると、他の字よりひときわ小さい文字が目に入った。
「ユウジ?」
「、っ!」
神崎は俺の言葉を聞くと、焦ったような恥ずかしいような困ったような、とにかく複雑な顔をして、息をつまらせた。
「なんや、おもろい名前の星があんねんな。」
「そ、そうなの!珍しいよね!」
必死で頷く神崎を見て、思わず笑うと、神崎は不思議そうな目で俺を見た。
「くっ、珍しいて、これ俺の名前やろ。こんな星聞いたことあらへんわ。」
神崎は一瞬ぽかんとしとったけど、次の瞬間、意味に気づいて顔を真っ赤にして机に突っ伏した。
「これ、俺やんな?俺、星なん?なんで?」
「一氏君のいじわる。気づかなかったふりしてくれてもいいのに。」
というか、あんな小さな文字なんで読めるの、とぼやく神崎を見て俺はちょっと吹き出した。
「なんで見ないふりせなアカンねん。こんなん見逃せるわけないやろ。」
「もう、一氏君はほんと笑いに貪欲だよね。でも、人の恋路は笑ったらダメなんだよ。」
足をパタパタさせながら、なおも顔を突っ伏したままの神崎の頭を軽くはたいて口を開いた。
「なんでやねん。別におかしくて笑ってんちゃうわ。」
「でも、笑ってるじゃん。」
「アホ、お前が可愛くて笑ってんねん。」
「えっ、な、ななな!」
やっと顔を机からあげた神崎に、はは、何言うてんねん、日本語喋れや、と笑うと、神崎は目をおよがせた。
「ああ、聞こえへんかったんか。かわええって言ったんや。神崎、かわええなあ。」
わざとそう言うと神崎は真っ赤にさせたまま、席を立って逃げ出そうとした。
「なに逃げ出そうとしてんねん。」
「いや、あの、えっと。」
神崎の泣き出しそうな顔を見て、ちょっと罪悪感が出てきた。まあ、泣きそうな顔もかわええから、ちょっと泣かしたりたいとか思ったけど、それはまた今度やな。
「すまん、ちょっといじめすぎてもたか。」
「いや、あの、大丈夫。」
「さっきな、神崎を見つけて、チャンスやと思ってん。二人きりなら神崎ともっと仲良おなれるかなって。そしたら神崎がプラネタリウムに俺ん名前書きよったから、仲良おなりたいん俺だけやなかったんかな、と思たら嬉しくて。」
実はな、好きなんや、とちょっと照れ隠しで笑いながら言うと、神崎はびっくりしたような顔で目を見開いた。
「私も、好き、です。」
「おん、おおきに。」
俺が笑うと、つられたように神崎も嬉しそうに笑ってくれて、やっぱり神崎の笑顔は最高やなって思った。
「あ、でもな、このプラネタリウムの俺の星、一つだけ文句あんねん。」
勝手に作ってごめん、でも好きだからずっと見てたかったんだもん、とすねたように言う神崎が可愛くて抱きしめたくなるのを抑えて、言葉を続けた。
「俺の星作ったんなら、隣にお前の星も作らんかい。」
伊織星やな、と笑うと、神崎は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに笑った。
これからこの笑顔がたくさん俺に向けられるんやな、と思うとなんやめっちゃ嬉しくなった。
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