一氏君と好きなタイプ
今朝から一氏がおかしい。
どこが、って言われたらうまく言えないんやけど、なんかおかしい。
「ああ、神崎、そんな重いもん持っとったら手ぇ痛いやろ?俺に貸し。」
「え、あ、どうも。」
なんでやねん、てか誰やこの人!
一氏の皮被った誰かなんか!?
いつもの一氏やったら、何重いもん持ってフラフラしてんねん、邪魔なんじゃボケ、はよ貸せ、とか言って荷物をかっさらっていくのに。
いや、荷物を持ってくれるのは一緒だけどね。そうじゃなくて、なんか違うんだよ、とにかく!
そう白石にうったえたら、白石に笑われた。
「ええやんか、優しいん好きなんやろ?」
「は?いつ私がそんなこと言った?」
ほれほれあの時や、と言われても、そんな言葉で思い出すくらいなら初めから忘れないと思う。
「せやから、昨日俺が重いもんぎょーさん持っとった子の荷物持ったげたり、両手ふさがってる子に扉開けたげたりしとるのを見て言ったやん。白石優しいなー、自分の彼女になる子は幸せもんやなーって。」
ああ、そんなことを言ったかもしれない。
「いや、あれはなんとなく思ったからああ言っただけで、別にそんなコテコテの優しさが好きなわけとちゃうよ。」
白石はコテコテの何があかんねん、と笑っていた。
まあ確かにあんなふうに優しくされたら嬉しいけど、それよりも、一氏の不器用でさりげない優しさの方が私は好きだな、なんて密かに思った。
「なんやて!?」
「わっ、一氏!いきなり後ろから出てこんでよ。」
私がびっくりしたやん、と言うのを流して、一氏は私につめよった。
「お前、白石みたいなんが好きなんとちゃうんか!」
「いや、タイプじゃないね。」
失礼な奴やなー、と笑っている白石に髪の色は好きだよ、とフォローをいれると、また一氏がつめよってきた。
「やっぱり白石が好きなんやんけ!嘘つくなやボケ!」
「あ?なんでやねん!タイプやないって言うとるやろ!」
「タイプやなくても好きになることってあるやろ!」
「知らんわ、そんなんあるか!」
「あるわ!俺は小春がタイプやけどお前が好きなんじゃボケ!」
・・・へ?
あれ、なんか今聞き慣れない言葉が聞こえたような。
「せやから白石みたいなんが好きならしゃーないから白石みたいになったろて頑張ってんのになんやねんお前は!」
一氏はいつもの喧嘩腰のままそう言うと、お前もなんか言わんかい!と凄んできた。
なんかって、何を言えっちゅーねん!
白石に助けを求めるように視線を送ると、楽しそうに笑って見ていた。
アカン、頼りにならん。
「一氏。」
「なんや!?」
「えっと、なんかな、さっきの、まるで告白みたいに聞こえるんやけど。」
私がそう言うと初め一氏は、あ?と凄んでいたけれど、だんだん、やってもた!みたいな焦った顔になった。
「あ、あんな!私、ほんまは銀さんみたいなんがタイプやねんけど、好きなタイプと好きになる人が一致せえへんことってあるんやな。やって、私が好きなんは一氏やから!」
ほなな!と言ってから、顔を真っ赤にさせた一氏の前から全力で走り去った。
恥ずかしい!顔から火が出そうや!
でも、なんだかにやけて、気持ちは幸せだった。
「おい、ユウジ、はよ追いかけたらんかい。」
「アカン、俺今にやけて顔あげられへん。」
「(ほんま似たもん同士やなあ。)」
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