佐伯君と文化祭
今日は待ちに待った文化祭。
クラスの模擬店の店番を終えたから、後は自由時間だ。楽しみ。
「伊織ー、どこ行く?」
「どうしよっか?とりあえず差し入れにもらったタコ焼きしか食べてないから、何か食べたいなー。」
「だよねー。」
じゃあ何か美味しそうなもの探そう、と友達に言おうとした時に、ふとあるものが目に入った。
「…プラネタリウム?」
すごい。文化祭でプラネタリウムとか作っちゃうんだ。
「ねーねー、見てこうよ!」
そう言いながら友達の手を引っ張ると、えー、と言われた。
「プラネタリウムじゃお腹は膨れないよー。」
面白そうなのになー、と名残惜しげに見ていると、友達はその隣の焼きそばの行列に惹かれたみたいだ。
「私焼きそば並んでるから、その間に行ってきなよ、プラネタリウム。ちょうど隣だしさ。」
うーん、と少し迷ったけど、友達はもう焼きそばの列に向かっていたから、私もプラネタリウムに行くことにした。これ見終わったら何か食べようっと。
教室の扉の前に立っていた子にプラネタリウムを見たいと告げると、笑顔で中に入れてくれた。今は誰もお客さんいないんだって。
教室の中は暗幕か何かで光を遮断されて暗かったけど、そのおかげで天井の星が綺麗だった。電球で作ってるのかな?とにかく綺麗。
「いらっしゃい。」
教室に入った場所で固まって天井を見ていたら、いきなり近くから声がして驚いた。暗くてあまりよく見えないけど、佐伯君だ。あれ、今誰もいないんじゃなかったのかな?と不思議に思っていると、佐伯君の小さな笑い声が聞こえた。
「ごめんね。びっくりさせちゃったかな?」
「え、いや、大丈夫。」
「そう?プラネタリウム、暗い教室の中を歩くから、クラスのみんなが交代で案内してるんだ。足元、気をつけて歩いてね。」
「あ、うん、ありがとう。」
佐伯君のことは一方的に素敵な人だな、と知ってはいたけど、話すのは初めてだ。佐伯君に案内してもらいながらプラネタリウムを歩くなんて夢のようだけど、緊張しちゃって星に集中できないんじゃないかな。
だけど少し歩きだすと、そんな考えはすぐに消えた。天井の星はただただ綺麗で、ちゃんと足元も見てねって笑われてしまうくらい夢中になってしまった。
「綺麗ー、綺麗だねー。」
「ふふっ、そうだね。」
ゆっくりと歩く佐伯君について行きながら頭上の星を見ていると、佐伯君は、あ、と立ち止まった。
「どうしたの?」
「ちょっとここで止まって。」
「ん、何?」
いきなり立ち止まった佐伯君を不思議に思っていると、佐伯君は微笑みながら頭上を指さした。
「ここね、運が良かったら、流れ星が見られるんだ。ほら、上見てて。」
「そうなんだー、…あっ!」
佐伯君が指し示すまま上を見ていると、ちょうど、サーッと星が一つ流れた。
「ふふっ、流れたね。」
もしかしたら人が来たら流れるようにしてあるのかもしれないけど、そんなことが気にならないくらい、なんだか嬉しくなった。
「流れ星、見えたよ!ね、佐伯君!」
「ふふっ、運がいいんだね、神崎さん。」
喜んでもらえてよかった、と微笑む佐伯君に、うん、すっごく嬉しい、と笑顔を返してから、ふと違和感に気づいた。
…あれ、私、名前教えたっけ?
聞こうかと思ったけど、何事もなかったかのように歩きだした佐伯君を見て、名前呼ばれたの、気のせいだったのかも、と思うことにした。
「そろそろ出口だね。」
「あ、本当だ。」
なんだかあっという間だったな。たぶんもうこうやって二人で話すことなんて、ないんだろうけど。でも、いい思い出もらえて良かった!
「じゃあ、気をつけて帰ってね。」
「うん、ありがとう。」
「次はさ、手作りじゃないプラネタリウムに行こうか、二人で。」
「…え?」
なんだろう、これも文化祭のサービストークなんだろうか、と戸惑っていると、佐伯君は少しはにかんだように笑いながら続けた。
「デートに、誘ってるんだけどなー。駄目かな、神崎さん。」
「だ、だだ駄目じゃ、ない!」
「良かった。じゃあ文化祭終わったら教室に会いに行くね。」
じゃあ、またね、と笑った佐伯君に首を縦にブンブン振ってうなずきながらプラネタリウムの教室を出た。なんだか、夢みたいだ。
プラネタリウムの教室から出てきた私の顔が、びっくりするくらい真っ赤だったみたいで、焼きそばを買っていた友達に、一体どうしたのとびっくりされてしまった。
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