short | ナノ


神尾君に気持ちがつつぬけ


悪いんだけど、宿題教えてくれね?と神尾君に頼まれて部屋に来たはいいものの、私あんまり役に立ってない気がする。
そもそも宿題っていっても量がちょっと多いだけで特に難しいとこなんてなかったし、教えることなんてないもんね、と一人黙々と宿題を進める神尾君を見ながらため息をついた。

「ねー、私帰ろっか?」

神尾君の部屋にあった漫画や雑誌を適当に見ながらそう言うと、神尾君は宿題に目を向けたまま片手をひらひらと振った。

「いーや、いて。」

「でも、別に役立ってないし。」

まったく私を見ない神尾君にちょっとムスッとしてそう言うと、神尾君はやっと顔をあげた。

「へ?俺、助かってるけど?」

どこがよー!とムスッとしたまま言おうとするのより早く神尾君が続けた。

「伊織が近くにいると、早く一緒になんかしてーなーって思って集中できるんだよ。」

ホラ、あんだけあったのに、もう後こんだけだぜ、と笑いながら宿題の残りを見せる神尾君に内心キュンとしつつ、はいはい、そうですかー、と流すと、あ、照れてる、と笑われた。

神尾君にはいつもこんなふうに気持ちがつつぬけだ。頭撫でられた時に髪型崩れるからやめてって言いながら本当は喜んでるのもバレてて、また撫でてくるし、クラスの女の子と話してるのを見てちょっと嫉妬しつつ、でもこんな心が狭いのやだなと思って平然としてるのも気づかれてて、二人きりになってから、おでこをくっつけて、伊織、好き、と優しく言ってくれるし。これをされるといつも不機嫌なのなんて吹っ飛んじゃうのと同時に、また気持ちつつぬけだ、とびっくりするんだ。思えば、告白しようと部活終わりの神尾君を待って、タオルを渡した時から、すでに気持ちはつつぬけだった。





「神尾君、お疲れ様、はいタオル。(いつ好きって言おう!ああもう神尾君好き!)」

「ありがとう。俺も伊織好き。」

「え…、いや、ちょっと、あの、えっ!」





なんていうか、今思い出してもコントだ。

なんでそんなに考えてることわかるの?って聞いたら、俺が伊織のこと好きだからじゃね?って言ってたけど、理由になってない。…でもその答えが嬉しかったから、それ以上追求してないんだけどね。

私がそんなことを一人考えている間も、神尾君は集中して宿題に取り組んでいた。

時計を見ると結構な時間が経っていて、そろそろちょっと構ってくれないかなと、神尾君に視線を向けると、タイミングよく顔をあげた神尾君と目があった。

「うし、ちょっと休憩!」

ほら、また、気づかれちゃったみたいだ。…その度に、好きがどんどん増えてるのも、もしかしたら気づかれてるのかな。

なんか飲み物とってくっから、と部屋を出た神尾君を待ちながら、指でリズムを取るように机を叩いた。

−−−・− −・−・・

何回かそれを繰り返していると、扉が開いて、二人分の飲み物を持った神尾君が戻ってきた。

「ん、どーぞ。」

「ありがとー。」

「で、今の何?なんかリズム取ってたけど。」

あ、神尾君にもわかんないのあるんだ、となんだかちょっと面白くなって、もう一度指で机を叩いた。

−−−・−(ス) −・−・・(キ)

「モールス信号。今なんて言ったかわかる?」

神尾君は私の目を見てから笑った。

「好き?」

「な、なななななんで!」

さっきはわかってなかったのになんでわかったんだ、神尾君ってエスパーっ?と焦っていると、神尾君は楽しそうに笑った。

「ぷはっ、焦りすぎ。」

「…モールス信号知ってるなら言ってよね、ばかー。」

拗ねてそう言うと、神尾君は笑った顔のまま手をひらひらと振った。

「いや、モールス知らねーけど。ほら、最初、部屋に入ったときに聞いた音は意味わかってなかっただろ?」

確かにそうだ。最初はわかってなかった。

「じゃあなんで2回目に聞いたときはわかったの?」

神尾君は、ちょっと照れたように笑ってから、口を開いた。

「だってさ、目が、好きって言ってたから。1回目のは目、見えなかったからわかんなかったんだけどなー。」

私が、ばか、と言うと、神尾君は、あ、また照れてる、と笑ってから続けた。

「伊織、よく俺のことエスパーとか言うけど、俺、伊織の気持ち以外はそんな鋭くねーよ?伊織だけは目見たらなんとなーく気持ちわかるんだ。たぶん、伊織のことたくさん見てたからじゃねーかな。つまり、そんだけ俺が伊織を好きってこと。」

わかった?と聞かれ、わかった、と頷くと、神尾君は嬉しそうに笑った。…嬉しいのは、私のほうだよ、もう。

じゃあまた宿題すっかー、とのびをした神尾君の服のすそを軽くひっぱった。

「神尾君、すき。」

「ありがと。」

そう言った神尾君の目は、好きって言ってるみたいで、ああ、そっか、こういうことか、と納得した。

こんな些細な目の表情にも気づいてくれる神尾君が、私はやっぱり大好きです。


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