小春ちゃんを一氏君と祝う
もうすぐ、大好きな大好きな大好きな!小春ちゃんの誕生日!
「小春ー、もうすぐ誕生日やんな。」
「何か欲しいものとかない、小春ちゃん?」
ほわんほわんとハートを飛ばしている一氏君にかぶせて小春ちゃんに話し掛けると、邪魔すんなや、と怒られた。
「邪魔すんなって、こっちの台詞ですー!一氏君は部活でいっつも一緒なんだから、クラスでくらい邪魔しないでよね。」
「アホ、クラスでも部活でも小春あるところ俺ありや!」
ストーカー、とボソッと呟くと、あ?と凄まれた。
一氏君が嫌いなわけではないけど、同じ小春ちゃんを好きな同士、やっぱりライバルで、顔を突き合わすといつもこんな感じになってしまう。小春ちゃんは、そんな私と一氏君を見て、いつものように、ふふっと笑った。
「欲しいもの、ねー。二人が仲良ぉ祝ってくれたら、アタシはそれだけでめっちゃ幸せなんやけどなー。」
小春ちゃんの笑顔に、やっぱり天使!と癒されつつ、内容に頬がひきつった。一氏君を見ると、私と同じような顔をしていた。
クラスの子に呼ばれて去っていった小春ちゃんに取り残された私と一氏君は、ひきつった頬のまま顔を見合わせた。いつも言い合いばかりしているこの一氏君と、仲良く?難しいよ、小春ちゃん!…でも、
「一時休戦や、神崎。」
「そうだね、小春ちゃんのために、仲良く祝おう。」
幸せそうに笑ってくれる小春ちゃんのためなら、きっと仲良くなれる、はず。
それからは、一氏君とお笑いのネタ合わせをがんばる毎日だった。なんでお笑いかと言うと、「仲良く」がどういうものかわからなくて、二人でコントをして見せたら「仲良く」祝ったことになるんじゃないかってことになったからだ。
ネタ合わせをするようになって気づいたことは、一氏君は「お笑い」に関して、とても真剣な思いを持っているということ、そしてそのお笑いのパートナーでもありテニスのパートナーでもある小春ちゃんのこともよく見ているということ。
「おし、上出来や!」
小春ちゃん誕生日当日の早朝、まだ誰も朝練に来ていないテニス部の部室でコントの最終確認を終えた。あとは小春ちゃんが来るのを待つだけ。
「きっと小春ちゃん喜んでくれるよね!」
私が笑ってそう言うと、一氏君は、おう、と笑った。
「神崎がまさかここまで真剣についてくる奴とは思わんかったわ。流石、小春に信頼されてるだけはあるな!」
「そんなそんな!一氏君こそ小春ちゃんに信頼されてるじゃん!小春ちゃんがあんなにクールな態度とるの一氏君にだけだし、それだけ親密度高いんだなーって、ちょっと羨ましいんだ。」
「一氏君とか水臭いやないか神崎!一氏でええで、一氏で。」
「ありがとう、一氏!」
小春ちゃんの誕生日を仲良く祝うという同じ目標を持ったためか、なんだか一氏との間には、不思議な仲間意識がわいていた。結構いい奴じゃん、一氏。
手をグーにして、コンと突き合わすと、扉が開いて小春ちゃんが入ってきた。
「小春ちゃん!」
「誕生日!」
「「おめでとう!」」
見事にハモった私と一氏君のおめでとうを聞いて、びっくりしてつ嬉しそうに笑う小春ちゃんに、二人で練習したコントを披露した。小春ちゃんは、楽しそうに、あははっ、とたくさん笑ってくれて大成功だ、と嬉しくなった。
コントが終わり、どうも、ありがとうございましたー!とハモると、小春ちゃんはパチパチと拍手をくれた。
「ありがとうね、伊織ちゃん、ユウ君。めっちゃ嬉しい誕生日やわー。」
「喜んでもらえてめっちゃ嬉しいわ!俺、小春のこと通天閣くらい好きや!」
「なっ、一氏、抜け駆けしないでよ!小春ちゃん、私、小春ちゃんのことスカイツリーくらい大好き!」
「この東京かぶれが。何がスカイツリーや。」
「スカイツリーのが通天閣より高いもん。スカイツリーの大きさは、私の小春ちゃんへの愛の大きさなの!」
「くっ、それやったら俺はエベレストや!」
「だったら私は地球!」
「宇宙!」
「きーっ、宇宙より大きなもの思い付かないー!」
小春ちゃんは、いつもと同じように言い合いをはじめた私達を見て、くすっと笑った。
「あらあら、二人とも仲良ぉ祝ってくれるんとちゃうの?」
喧嘩はめっ、とおでこをつんとつかれて、拗ねてぷうと頬をふくらませた。
「やっぱ小春は神崎のが好きなんや。」
「やっぱり小春ちゃんは一氏の味方なんだ。」
またハモってしまった拗ねた口調の私達を見て、二人ともかわええな、と言って小春ちゃんは笑った。
「二人ともおんなじくらい、めーっちゃ大好き、やアカンかな?」
そう言って、頬に片手を添えてコテンと首を傾げた小春ちゃんは、なんていうか女神級に可愛かった。
「小春、小悪魔天使やーでもそんなとこもかわええ。」
「小春ちゃん天使!その笑顔まじ天使!」
似た者同士よな、ほんま、と言って笑う小春ちゃんは本当に嬉しそうで、一氏と一緒に祝わなかったらここまで喜んでくれなかったんだろうなって思った。
一氏も同じことを思ったみたいで、神崎、おおきにってボソッと言った。こっちこそ、ありがと、と返しながら、小春ちゃんの言う通り、結構似た者同士なのかもと思って、ちょっと笑った。
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