一氏君とくつろぐ
部屋ん中で仰向けになって雑誌を読んでいると、さっきまで何がおもろいんかはわからんけど、隣に寝転がって静かに俺のメンズ用のファッション雑誌をみていた伊織のほうから、ぺしっ、ぺしっ、と何かを叩く音が聞こえた。
なんしとんやろ、と仰向けのまま横目でチラと見ると、俯せであごまでぺたーっと床にはりつけた伊織が、目だけで俺を見ていた。
なんかおもろいからちょっとほっとこ、と笑いそうになるのを隠して雑誌に目を戻すと、またぺしっ、ぺしっ、とリズムのいい音がした。どうやら膝から下の片足をあげて、ぺしっと床を叩いとるみたいや。
なんや、と伊織に目を向けると音は止まり、目を雑誌に戻すとまた始まる、ぺしっ、ぺしっ。
「…なんしてんねん。」
ほっといたらずっとやってそうやな、と思って聞くと、伊織はちょっと顔をあげて嬉しそうな顔をした。
「猫のまね。」
「は?」
あれのどこが猫やねん。
仰向けだった体勢を横にして伊織を見ると、伊織は、これ、尻尾、と言いながらさっきまでぺしぺしやっていた自分の片足を指した。
「…ぷっ、」
足が尻尾で、俺が伊織の方向いてへんときにぺしっ、ぺしって叩いてたっちゅーことは、あれか、俺が構わへんから機嫌悪いねんでー、構ってやー、ちゅーことか。
わかりにくいわ、アホ、と思いながら笑っていると、なんかユウジ君が楽しそうだー、と伊織まで一緒に笑い出した。
「猫にしてはでっかすぎや。」
手を伸ばして伊織の頭を軽くはたくと、伊織は、痛いなー、と全く痛くなさそうに笑って、俯せから体勢を横にして俺のほうを向いた。
「おっきい猫なんだよ。新品種なの。」
アホか、と笑って、伊織の腕をひっぱった。ころん、と半回転した伊織は、すっぽりと腕の中におさまった。
「ふふ、カンガルー?」
カンガルーってなんやねんって思ったけど、伊織があんまり嬉しそうに笑うもんやから、ついつられて笑ってしまった。
いつもいきなり変なこと言い出して、なんやおもろいなーと思ったりもするけど、そんなとこもなんちゅーか、…めっちゃかわええんよなー。
ああ、ほんま、背中から抱きしめとってよかったわ。
多分、今、顔めっちゃ緩んでるから。
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