long | ナノ


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校舎裏の森の中に、ひっそりとした佇まいの小屋があるらしい。

らしい、と言うのは、噂だけが広まって、誰も見たことがないからだ。

まあ、よくある学校の七不思議ってやつやな。七つもあるんかどうかは知らんけど。

昼休み、弁当食べたらちょっと眠気がやってきた。
たまには外で昼寝するのもよかよ、なんて千歳の言葉をなんとなく思い出して、校舎裏の森に向かった。いつもやったら外で昼寝なんてありえへんねんけど、なんとなく天気もええし、たまにはええかなって。


*


目覚めたら、知らない小屋にいた。

窓の外を覗くと、たくさんの木々。

こわい、なんだこれ、なんなんだここは。

誰かに誘拐されたんだろうか。

誰か、というより私を誘拐した人が来るかもしれないと怖れて、一晩中起きていたけど、気がついたら誰も来ないまま朝になった。

私はいったい、どうしてここにいるんだろう。


*


にしても、学校裏ってこんなとこやったんや。千歳がよぉ来たくなるんもわかるなー。

遠くから見ていただけではただ木が生い茂っているだけの場所だったのだが、中に入ってみると、その印象は一変した。

「なんちゅーか、果物もぎ放題やな。」

明るい陽射しが差し込む森は、美味しそうな果物の木でいっぱいやった。

金ちゃんとか連れて来たら喜びそうやなー、なんて思いながら、昼寝に調度いい場所を探し歩いていたら、こじんまりとした小屋を見つけた。

これ、噂の小屋やろか?なんや、歩いとったら普通に見つかるやん。

きっと噂が大きくなって、幻の小屋とか言われとったんやろな。

せっかくやから幻の小屋の中でも覗いてみるかー、と小屋の窓に近寄ると、厚いカーテンがキッチリと閉めてあって中の様子は伺えなかった。

扉はどやろ?とドアノブに手をかけると、鍵がかかって開かなかったが、部屋の中から何かにぶつかったような音がした。

ノックもなしにドアノブ、ガチャガチャしたから驚かせてしまったんやろか。てか、まさか人がおるとは思わんかったから、失礼なことしてもたな。

「驚かせてすみません、どこかぶつけました?怪我ないですか?」

軽いノックの後にそう声をかけるも、返ってくるのは沈黙ばかり。

もしかして人なんて初めからおらんかったんちゃうかって思うくらい静かやけど、確かにさっき音したし。

うーん、と小さく唸って、ふと腕時計を見ると、たくさん歩き回ったからか、もうすぐ午後の授業が始まる時間だった。

「あの、俺もう戻りますね。よかったら絆創膏と湿布置いとくんで、もし怪我したんなら使って下さい。」

普段から小さな救急セットを持ち歩いている自分の準備のよさに少し感謝しつつ、絆創膏と湿布を扉の前において、校舎へ戻った。


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