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3:気のせいかな


教室について、おはよー、と挨拶してきたサキに、電話のおまじないってさ、違うパターンのもはやってるんだね、と昨日忍足君に聞いたおまじないを話すと、不思議そうに首をかしげられた。

「え?いや、聞いたことないけど。」

「あれ?そうなんだ。なんかうちの学校の女子の間で流行ってるって聞いたんだけどなー。」

もしかして違うクラスではやってるのかな、忍足君と私、クラス違うし。

サキは携帯を開いて、アドレス帳の「跡部サマ」という文字を見ながら、うーん、と小さくうなった。

「なんか待つだけじゃ全然だめみたいだし、そっち試してみようかな。」

あのおまじない、だめだったねー、と言われ、え、いや、うーん、とにごすと、サキは携帯に向けていた顔をバッとあげて勢いよく私を見た。

「えっ、なになにその反応!なにかあったの?」

「実は昨日忍足君から電話があって、」

「うわっ!うらやましい!よし、私もまだしばらくがんばってみよう!で?で?忍足君なんて?」

「またかけるねって。」

サキの勢いにちょっとおされつつそう言うと、サキは、いーいなー!と羨ましそうな顔をした。

「忍足君から電話ほしかったの?」

「うっ、いや、ほしいかほしくないかで言ったらほしいけど。でも私がほんとのほんっとに話したいのは跡部サマただ一人!」

やっぱり、ぶれないなー、サキ。入学の演説の時からずっと跡部サマのファンだもんね。サキの影響で、私までずっと跡部サマ呼びになっちゃったんだよなー、なんて入学式のことを思い出してちょっと笑っていると、サキにが、あ、と何か思いついたような声をあげた。

「ねえ、テニス部の練習見に行こうよ。伊織、今日美術部休みでしょ?」

そういえば、サキがテニス部の練習見に行こうって誘ってくる時はなぜか毎回部活があって行けてなかったな。

「ね、行こうよ!跡部サマ見れるよ!あと、電話の忍足君も。」

「そうだね、行ってみる。なんか昨日電話で話してみて、忍足君に興味でてきたし。あ、でも大丈夫かな、あの応援の中入っても。なんかルールとかない?」

氷帝のテニスコートの周りにいつも張り付いている集団を思い出して、ちょっと不安に思ってそう聞くと、サキは大丈夫、大丈夫、と笑った。

「試合の時には氷帝コールってのがあるんだけど、今日は練習だから普通に邪魔にならないように応援してたらいいよ。」

「氷帝コール?」

「うん、氷帝コール!跡部サマいっつも本当輝いてるんだから!」

なんだろう、おもしろそうだけど、ちょっと大変そう。

まあ、今日は試合じゃないらしいし、よかった、なんて気を抜いたことを、放課後になってちょっと後悔した。

氷帝のテニス部はすごいとは聞いてたけど、本当にすごい。練習だからって、気抜けないや。

たくさんいる部員を見ながら、忍足君いるかなー、と少し探していたら、後輩の子たちのフォームを見てアドバイスをしている忍足君を見つけた。

距離があるから、何を言ってるかはもちろんわからないけど、アドバイスを受けた子たちはちゃんと深いところに返せるようになっていた。基礎をしっかり教えてるんだろうな。あの後輩君たちがこれから準レギュラーとかにあがってくるのかな、と想像してちょっとワクワクした。

でも、クールな表情で落ち着いて後輩指導をしている忍足君は、やっぱり昨日の電話とは別人みたいだった。

昨日の電話の時は、全然クールって感じじゃなかったもんな、と内心笑っていると、忍足君がふと顔をこちらに向けた。

もしかして気づいたんだろうか、と手をあげようかとしたら、それよりも早く、忍足君はテニスコートに目を戻した。

距離もあるし、女の子たくさんいるし、やっぱり気のせいだったのかな。

まあでも、今日は忍足君のテニスの練習が見れてよかったなー。





家に帰って、ベッドでゴロゴロしていると、携帯が着信を告げた。あ、忍足君だ。

「おう、神崎!」

「忍足君、今日も部活お疲れ様。」

やっぱり練習ハードなんだね、と言うと、忍足君は、おう、うちの部長がメニュー作っとるからな、無駄ないで!と笑った。

200人以上いたよね、テニス部って。その人数のメニューを考えるなんて、跡部サマってやっぱりすごいんだな、と思っていると、忍足君が、あ、せやせや、と楽しそうにきりだした。

「今度美術部休みんときテニス見に来てや!俺めっちゃ速いから、きっと神崎びっくりするで!」

「あ、実は今日見に行ったんだ!忍足君も見たよ、なんか後輩の子に指導してたね。」

目あった気がしたんだけど、やっぱり気のせいだったねー、と笑うと、忍足君はびっくりしたような声をあげた。

「え、ほんまに!うっわー、全然気づかなかったわ。てか後輩に指導しとるとこって、…うわ、財前やんな、きっと。あいついっつも俺んこと馬鹿にしてくんねんー!」

もう、恥ずかしいとこ見られてもたわー、と楽しそうに、でもちょっと照れくさそうに笑う忍足君に、今度は私がびっくりした。

「え、全然そんなふうにみえなかったよ。すっごく尊敬されてる先輩って感じだった。」

財前君がどの子かはわからないけど、たぶん今日指導してた後輩の子たちの内の一人なんだろうな。

「はは、おおきに!今日は気ぃつけへんかったみたいですまんな。今度学校ですれ違ったら全力で手ぇふるわ!」

「あはは、ありがとう。私も忍足君見つけたら手ふるね。」

明日学校で忍足君と会えたらいいなー、なんて思って、ちょっと楽しくなった。


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