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園芸委員と笑顔



沢山泣いて、ちょっと落ち着くと、後ろから走る音が聞こえてきた。

「神崎っ、神崎はん!」

「石田君・・・。」

「どないしたんや、泣いたって聞いて、急いで来たんやけど。」

石田君は本当に急いで来てくれたみたいで、少し息があがっていた。

「ごめんなさい。彼女と一緒にいたのに、邪魔しちゃって。」

「へ?わし、彼女なんておらんぞ?」

石田君はきょとん、とした顔を小さく傾げた。

「だって、最近女の子の匂い、してたし。今日も会ってたし。」

「あー、あれはな、彼女やないで。というか名前も知らん子らや。」

どういう意味?と私が石田君の顔を見上げると、石田君は私の前にしゃがんで目線を合わせてくれた。

「白石はんを好きらしくてな、ラブレターを渡してくれって頼まれてたんや。最初はしゃーなし引き受けてたんやけど、数もだんだん多なって、ここに来るのにも支障が出てきたから、今日はっきり、これからは自分で渡しい、他の子にもそう言ってな、って言ってきたんや。それで遅なってしもて、ほんまにすまんな。」

「私の、勘違い・・・。」

は、恥ずかしい。

勘違いして、いきなり泣き出すだなんて。

「神崎はん、ちょっと聞いてくれるか。」

「うん、何?」

「神崎はん、花にあんまり興味なかったのに、どうしてわしが園芸委員になったのか、気にしとったやろ。」

そういえば、最初に園芸委員に決まった時、石田君とそんなこと話したっけ。なんか懐かしいな。

「園芸委員になったら、神崎はんと仲良うなれるかな、って思ったからなんや。」

「え、・・・えっ?」

「ずっと、にこにこしながら、花を見とる神崎はんを見とった。その笑顔がわしにも向けられたら、どんなにええやろうかって、思っとった。」

私はただ、ただびっくりして、石田君を見つめることしかできなかった。

「神崎はんのこと、大切に思っとる。もう泣かせたりせんし、幸せにするから、わしと、付き合うてくれんやろか?」

「わ、私も、石田君が好き。」

私が固まってしまった口をなんとか動かしてそう言うと、石田君はちょっと驚いた顔をしてから、嬉しそうに微笑んで、おおきに、と言ってくれた。

「あ、咲いたんやな。」

石田君は私の後ろの花に気づいて目をやった。

「うん、一緒に見れたね。」

「せやな。」

石田君の笑顔は本当にあたたかくて、石田君に見惚れてしまった。

石田君は照れたように笑いながら、やっぱり神崎はんの笑顔はあたたかいな、と言った。

さっきまで悲しい顔をしていた花が、なんだか微笑んでくれた気がした。


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