1:電話番号はインスピで
放課後の教室。そろそろ帰ろうかとか言いつつ、ポッキーを食べてまったりしていたら、あ、そうそう、と前置きしてからサキが携帯を見せてきた。
「見て見て!じゃーん!」
「んー?」
見せられたアドレス帳画面の一番上に登録してある「跡部サマ」という名前を見て、私は驚いた。
「わ、跡部サマの電話番号とかなんで知ってるの?」
そういえば跡部サマのファンだったっけ、よかったじゃん、と祝福しつつ聞くとサキはあっけらかんとした顔で答えた。
「え、番号知らないけど?」
「へ?」
え、なに、どういうこと、と思いながらサキの携帯の「跡部サマ」という文字を見ていると、サキは、ふっふふ!と得意げに笑ってから続けた。
「あのね、これおまじないなの。電話番号のおまじない、最近うちの学校の女子の間で流行ってるんだよ。」
「なにそれ?」
「なんかね、話したい人の電話番号を携帯に登録してたら、その人から電話かかってくるかもなんだって!」
なるほど。それで跡部サマの名前を登録してたのか。
「へー、そんなの流行ってたんだ。てか番号知らないんでしょ?どうしてるの?」
「てきとう!インスピ!」
自分の頭を指さしながら、インスピレーションでなんとなく跡部サマっぽい数字を羅列してみたよ!と胸を張るサキを見てつい吹き出してしまった。
「ぷはっ、そんなんで電話かかってくるならびっくりだね。」
私がそう言って笑うと、でもおもしろいでしょ?とサキも笑った。
「うん、なんかおもしろいかも。私もやってみよー。」
話したい人、か。誰がいいかな。好きな人とか別にいないし。
「誰にするの?」
「うーん、じゃあ忍足くんにしようかな?」
「え、ファンだったっけ?」
驚くサキに、んーん、なんとなく、サキが跡部サマだったから、その繋がりで言ってみただけ、あと、なんか関西弁珍しいし、と言うと、なーんだ、とがっくしされた。
「あ、でも声すっごくいいって聞くよね。本人と話したことないから本当か知らないけどさ。その噂のいい声が聞けるなら、かかってきて欲しいかもなー。」
適当な数字を打ち込んで「忍足君」と登録しながらそう言うと、サキも、でしょでしょ!かかってきて欲しいよね、と楽しそうに同意してから、まあでも、とちょっとテンションを下げて続けた。
「私、この番号登録してから2ヶ月くらいたつのに、かかってきたことないんだけどねー。」
まあ、やっぱおまじないってそんなもんだよねー、と顔を見合わせて二人で笑ってしまった。
でももしかしたらってこともあるし、忍足君のおまじないの番号は登録したままにしとこっと。
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