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7:一緒にいたい


こーはるちゃーん、という声に振り返ると、後ろから走り寄ってくる伊織ちゃんの姿が見えた。今日も元気やなぁ。

「小春ちゃん、あのね!お好み焼きって、漢字二文字で表したら好焼だよね。好焼って見たらたぶん『すきやき』って読むよね。だからさ、お好み焼きとすき焼きって、もしかしたら同じなんじゃないかな!」

「いや、ちゃうやろ。」

バサッと切ると伊織ちゃんは、えー、と首を傾げた。

「すき焼きのすきは、ひらがなやろ?」

「漢字にしたら、ラヴの好きじゃないの?」

「いろんな説があんねんけど、農具の鋤(すき)の説が有力やね。江戸時代に、鍋やのぉて鋤の金属のとこを火にかけて、魚とか豆腐とかを焼いて食べたんが始まりやねんて。お好み焼きは字の通り、好きなもんを小麦粉と混ぜて焼いたっちゅーことやと思うで。」

まあ、今のが一応有力やけど、それもただの一説に過ぎひんから、肉を薄ぅ切る剥身(すきみ)から剥き焼き(すきやき)になったちゅー説とかのが正しいってことも、もしかしたらあるかもしらんけどなと言うと、伊織ちゃんはキラキラした目でアタシを見てきた。

「小春ちゃんはやっぱり物知りだね!」

純粋な目を向けてくる伊織ちゃんが可愛くて、でもちょっと眩しくて、軽く目をそらして笑った。

「小春ちゃんはいっつも分かりやすく教えてくれるよね。だから私、気になることがあったらすぐに小春ちゃんのとこに来るんだよ。」

ちら、と伊織ちゃんを見ると、やっぱりキラキラした目でアタシを見ていた。アタシには、なんやもったいないような気がしてしまうこの眼差しは、ちょっとくすぐったいながらも、なんだか心地いい。

「ほな、ずっと伊織ちゃんの好奇心の泉が枯れへんかったらええな。そしたらずっとアタシのとこ来てくれるんやろ?」

いつものように笑いながら、さらっと言ってしまってから、え、と固まった伊織ちゃんを見て、しまった、と思った。

アカン、こんなこと言うつもりなんてなかったのに。

「小春ちゃん、」

「なぁに?」

焦った内心を隠していつものように笑った。

「私ね、好奇心いっぱいでね、知りたいこと、小春ちゃんに聞きたいこと、たくさんあるよ。」

「ええことやね。」

「だけどね、それだけじゃなくて、私は小春ちゃんが大好きだから、これからも小春ちゃんのところに来るよ。」

伊織ちゃんはそう言うと照れくさそうに笑った。

たまたま近くにおる存在やから好きって言うとるんかなとか、伊織ちゃんにはアタシよりええ人がたっくさんおるやろとか、伊織ちゃんがアタシに本気になる前にそっと忘れさそとか、いろいろ思うことはあってんけど、ダメやね。
もう降参や。
やって、たとえ今さら伊織ちゃんがアタシから離れて行ったとしても、アタシが伊織ちゃんを好きなんは、もう心の内には隠されへんもの。

「伊織ちゃん、」

「なに?」

笑いながらアタシを見上げる伊織ちゃんの頭に、ポンと手を置いた。

「これからも、一緒おってな。」

「っ、うん!」

伊織ちゃんは一瞬びっくりしたような顔をしてから、すぐに嬉しそうな笑顔になった。

そんな伊織ちゃんを見て、これからも、ずっとずっと、そばでこの笑顔を見守っていきたいな、なんて思った。


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