6:照れたい
「うーん、どっちにしよう。」
自販機の前、お財布片手に立ち尽くした。
桃ヨーグルトか、マンゴーヨーグルトか、
もう迷いすぎてどっちが飲みたいのかわかんなくなってきたから、あえてどっちもやめてプレーンの飲むヨーグルトにしようかな、なんて考えていたら、後ろから、伊織ちゃん、って声をかけられた。
「小春ちゃん!」
「どないしたん?自販機の前で難しい顔して。」
「えっとね、飲むヨーグルト、桃かマンゴーで迷ってたんだけどね、桃に決めたの、たった今。」
だって桃のほうが小春ちゃんっぽいし、なんて思ってちょっとにやけながら自販機のボタンを押すと、小春ちゃんも笑ってくれた。
「なんやよぉわからんけど、難しい顔やなくなってよかった。」
「へへ、ありがとう、…ん?」
桃ヨーグルトを取り出そうと受取口に手をのばすと、自販機からファンファーレのような音がした。
「え、わわっ!当たりだよ、小春ちゃん!当たりが出たからもう一本だよ!」
「ほんまや。珍しいなー。」
今日は小春ちゃんに会えたし、話せたし、笑顔が見られたし、自販機も当たりだったし、いいことづくしだな。
当たりのもう一本を小春ちゃんに手渡しながら、私は嬉しくてふふっと笑った。
「私、当たったの初めて!小春ちゃんは幸運の女神だね!」
だって、小春ちゃんが笑ってくれただけで、私はこんなに幸せだもん。
私が笑っていると、小春ちゃんは笑いながら首をコテンと傾けた。
「あら、当てたのはアタシやのぉて伊織ちゃんやで。せやから幸運の女神は伊織ちゃんやね。」
小春ちゃんに、女神って言われた!いやいや、今のは私が言った言葉への返事だから。意味なんてないから。
そう冷静に言い聞かせようと思っても、嬉しくてほっぺたが少し熱くなってしまった。
しばらくは桃ヨーグルトを飲む度に思い出して照れちゃうんだろうな、なんて思ってまた笑った。
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