3:染まりたい
「小春ちゃん、何してるの?」
「梅干し漬けてるんよ。」
小春ちゃんの手元をのぞくと、中くらいの坪が二つあった。
「す、すっぱそう。」
「あら、伊織ちゃん酸っぱいの苦手なん?」
「ちょっと苦手かな、」
大好きな小春ちゃんの好きなものとはいえ、味の好みはどうしようもないよ、と少ししょんぼりしながらそう言うと、小春ちゃんは優しくニコッと笑った。
「伊織ちゃん、あーん。」
小春ちゃんが!あの小春ちゃんが私にあーんってしてる!
可愛らしい箸につままれて差し出されているのは、私の苦手な梅干し。
だけど、小春ちゃんがあーんなんてしてくれたのはじめてだし!
私は迷わずパクっと食べた。
「ん、…あれ?酸っぱくない。」
今食べたの梅干しだよね、と不思議に思って小春ちゃんを見ると、小春ちゃんはいたずらが成功した子どもみたいに楽しそうに笑っていた。
「ふふっ、あんま酸っぱくないやろ?蜂蜜梅やねん、それ。」
「これなら苦手じゃない!美味しいね。」
「よかった。」
小春ちゃんの好きなものを知って、それを私も好きになっていったら、それってだんだん私が小春ちゃん色に染まっていくってことになるのかな。
そうだったら、なんか嬉しいなって思った。
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