1:構ってほしい
小春ちゃんとドキドキ二人っきり。
それなのに小春ちゃんは本に夢中でつまんない。
「小春ちゃん、ねえ、小春ちゃん。」
「なん?」
しつこく呼びかけると、小春ちゃんは目は本から動かさないまま返事をした。
「小春ちゃん、ねえってば。」
「せやからなんなん?ちゃんと聞いとるで。」
小春ちゃんの言うことは本当なんだろう。
きっと小春ちゃんなら本を読みながら私と会話するなんて、造作もないことなんだ。
それでも小春ちゃんの目が、本にだけ向けられてるのは、なんかやだ。
そうだ、と思い付いて、私は小春ちゃんに静かに近寄った。
「ていっ!」
「わっ、…もう、なにしてんねん。伊織ちゃん。」
メガネを取り上げると、今まで何を言っても本から動かなかった小春ちゃんの視線は私に向けられた。
「わーい、やっと小春ちゃんこっち向いてくれたね!」
「せやけど、メガネしてへんから伊織ちゃんのことあんま見えてへんからね。」
小春ちゃんは私の手からメガネを受け取ると、綺麗な仕草でメガネをかけた。
「まったくもう、おいたしたらアカンやろ。」
小春ちゃんがあんまり本に夢中で、さみしかったんだもん。
でも、それだけ夢中になるくらい面白い本を読むのを邪魔しちゃったんだよね。
「小春ちゃん、ごめんなさい。」
小春ちゃんはそんな私を見て、小さく息をはいた。
「まあでも、伊織ちゃんが話しかけてるのに、ずっと本から顔あげへんかったし、アタシもごめんな。」
そう言った小春ちゃんは優しくふわっと笑っていた。
やっぱり、小春ちゃんは優しい。
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