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金曜日:送る


そろそろ謙也君の部活終わる頃かな、と思って、写し終わった今日の授業ノートを鞄にしまった。

一昨日から、帰りは謙也君の部活を待って、家まで送ってもらっている。

初めは、部活もあるんだし大変だから送らなくていいよって言ったんだけど、そうしたら謙也君、私を送ろうとする気持ちと、部活の間私を待たせてしまうという気持ちとのジレンマに悩みだしちゃって。

ほな帰りは気をつけて帰ってな、とかで簡単に済ましたらいいのに、全力でどないしよ、どないしよって考える謙也君を見てたらなんだか頼ってもいいような気がして、部活の間は友達に借りた授業中のノートを写してるから、部活終わったら送ってねってことになったんだ。

なんだか謙也君っていつも全力でいいな。

「伊織ーっ、待たせてすまんな!終わったで!」

「謙也君、部活お疲れ様。」

でも、図書室だから静かにね、と笑いながら言うと、謙也君は、首を縦にぶんぶん振ったから、小さな声だったら話してもいいのに、なんて思ってちょっと笑ってしまった。

図書室を出ると、謙也君は私の手をとって歩き出した。

慣れたといえば慣れたけど、でもやっぱりちょっと恥ずかしいな。

でも謙也君のあったかくて大きな手にひかれていると、なんだかすっごく安心する。

「明日の土曜な、部活午前中やねん。」

「そうなんだ。部活、がんばってね!」

明日は授業がないから謙也君と会えないんだ。

なんかちょっと、つまんないな。

「ほんで、午後どこ行く?」

「へ、どこって?」

どういう意味だろうと、謙也君の顔をじーっと見た。

「え?どっか行かへんの?せっかく休みなんやからどっか行こうや。」

謙也君は多分、メガネないと不便やろうから、俺がついてったるでー的なことを思ってるんだろうけど、それでもなんか嬉しい!

休日に二人で出かけるなんて、なんかデートみたい。

「行きたい!なんか、どっか、行きたい!」

「ぶはっ、なんかどっかってめっちゃ曖昧やな。ほな部活終わったら家まで迎えに行くから、なんかどっか行こうや。」

「わーい、楽しみだね。」

会えないと思ってたのに会えることになったのが嬉しくて、謙也君に握られている手をぶんぶん振っていると、頭の上にぽんぽんっと繋いでない方の手を置かれた。

「ん、なに?」

「いや、なんとなく。(なんかかわええなって思ってたら、つい頭触ってもたわ。)」

「ぷふっ、なんとなくって、なにそれ。」

うっせ、笑うなや、と私の頬を軽くつねる謙也君の声も笑っていたから、私はまたさらに笑ってしまった。

明日はどこに行くんだろう。

登下校意外の道を謙也君と歩くのは初めてだから、なんか、すごく楽しみだな。


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