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木曜日:照れる


教室の自分の席について、自分の掌を見た。

別にたいして大きな手とは思わんけど、伊織と比べるとめっちゃ大きいよな。

てか、伊織が手ぇ小さいんもあるよな。

昨日の朝初めて伊織の手をひいたとき、小ささにびっくりして力加減どないしよってめっちゃ焦ったわ。

そんなことを思い出してちょっと笑っていると、白石が俺の席に近づいてきた。

「おー、謙也、彼女できたんやな。」

「ん、彼女?おらんで。」

「へ、昨日も今日も手ぇ繋ぎながら登下校しとる女の子、彼女ちゃうん?」

白石に言われて改めて、そっか、周りからはこう見えんねんな、とちょっと気恥ずかしくなった。

「いや、ちょっと諸事情でな。彼女ちゃうで。」

諸事情ってなんやねんとつっこんできた白石にメガネの一件を話すと、白石はちょっと納得いかなさそうな顔で、ふーん、と言った。

「どんな子なん?」

「どんな子っちゅーか、うーん、手ぇめっちゃ小さい。繋いだら、俺の手ん中にすっぽりおさまんねん。」

「へー。」

「あとな、たまにめっちゃ、じーっと俺の顔見てくる。」

「ほー。」

「あんまりじーっと見るもんやから、表情見えとるんって聞いたら、髪の色くらいしかわからないよ、なんやって。てかな、この髪、綺麗で目立つから、メガネなしでも見失わないんやって。」

「ほー。(謙也、めっちゃ嬉しそうやなぁ。)」

「でもな、表情見えへん言われても、あんな目で見られたら照れるよな。な、白石やって照れるやんな?」

しかも、手繋いだ後とかにじーっと見られたときは、え、俺が伊織の手の小ささにドキドキしとんのバレとるん?ってめっちゃ焦ったわ。

「照れるやんな?って聞かれてもな、俺伊織さんがどんな目しとるか知らんし。」

「えっ!白石、伊織のこと知っとったん?なんで名前知ってんねん。」

「アホ、お前がさっき言ったんやろ。」

あ、せやったっけ?と言うと、白石は呆れ半分、おもしろ半分な笑顔になった。

「なんなん、その笑い。きしょいな。」

「いや、まあ、楽しそうやなって思って。」

「せやな、なんか楽しいわ!」

また次、じーっと見られたとき、俺もじーっと見返したら、伊織もちょっとは照れてくれたりするんやろか。

いや、あんま見えてない言うてたし、多分照れへんやろな。

今日は帰り道どんな話しよ。

あー、なんや楽しみやわ。


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