火曜日:割れちゃた
日直の用事をしていたら、ずいぶん遅くなってしまった。
先生、雑用おしつけすぎだよ。
今日に限って、もう一人の日直休みだし、なんて考えていたせいか、前があんまり見えていなかったみたいで、すごい速さで走ってきた人に勢いよくぶつかってしまった。
「わ、」
「う、わわ、すまん!」
いけない、今の衝撃でメガネを落としちゃったみたい。
早く拾わなきゃ、と床を手で探っていると、さっきぶつかった人が謝りながら近づいてきた。
「すまん、ケガないか?、って、わあ、メガネ!ふ、踏んでもた!ほんますまん!」
その人が手渡してくれたメガネは、フレーム自体が割れていて、もうかけられそうにはなかった。
気に入ってたけど、しょうがないな。
「えっと、私も考え事してたから、ぶつかっちゃってごめんなさい。」
とりあえずメガネ屋さんに行こう、と立ち上がったのはいいものの、視界が歪んで、思ったよりふらふらしてしまった。
ふらっとしたと同時に、綺麗な金色がすごく近くなった。
あ、支えてくれたんだ。
ぶつかったうえに、ふらついて支えられるだなんて、なんか恥ずかしい。
「わ、もしかしてあんま見えてないん?メガネ屋まで送ってくわ。」
「えっと、うん、ありがとう。」
あんまり見えなくても、金色の髪が目立つおかげで、ふらつかずにメガネ屋さんに辿り着けた。
メガネ屋さんの扉をくぐると、いつものお兄さんが近づいてきた。
「あらら、このフレームお気に入りの奴、割っちゃったんだね。」
「はい、まだあります?」
「ごめんね、この間神崎さんが買ったのが最後だったんだ。取り寄せるからあと一週間くらい待ってもらってもいい?それとも新しいフレームにする?」
「一週間か、…うーん、」
どうしよう、一週間もメガネなしはきついけど、このフレーム気に入ってるし、と悩んでいると隣にいた金髪君が、お兄さんに話しかけた。
「なあ、メガネ屋の兄ちゃん、一週間たったらこのフレーム届くん?」
「おー、一週間もあれば大丈夫ですよー。」
金髪君はそれを聞くと、よっしゃと言って、私に向き直った。
「ほな、メガネのない一週間、俺が自分の目になるわ。せやから、一週間待とうや。」
「え?」
「お気に入りなんやろ?ほんま、すまんかった。」
金髪君の声は、本当に申し訳なさそうだった。
金髪だけがぼんやりと見えてたから、ちょっとこわい人なのかな、なんて失礼なことを思ってたんだけど、そんなことなかったのかも。
「いや、でも、目になるなんて、」
「大丈夫や!登下校その他もろもろ、まかせとき!あ、でもクラスちゃうから、授業中のノートはでけへんな、どないしよ!」
自信満々にまかせとき!と言ったかと思えば、どないしよ、と急に焦りだした金髪君の声がなんだか可愛らしくて、断ろうと思っていたのに、私はつい、笑ってうなずいてしまった。
「ありがとう、じゃあ、頼んでもいいかな?授業中のは友達に写させてもらうから大丈夫だよ。」
「ほんまか!よかった。俺は忍足謙也。謙也でええで!」
「私は神崎伊織。私も伊織でいいよ。これからしばらくよろしくね、謙也君。」
「おう!まかせとき、伊織!」
謙也君って、なんだかすごく声に表情のある人だなって思って、気持がちょっとあったかくなった。
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