6:俺やったら、
ただただひたむきに誰かを思う神崎さんを見て、こんな想いを俺に向けられたらどんなにええやろうって、なんでかわからんけど、そう思ったんや。
俺を見てくれるんやったら、すれ違うだけで幸せとか、声が聞こえただけで嬉しいとか、そんな欲のないこと言わせへん。
すれ違ったらめっちゃ笑顔で手ぇ振るし、声が聴こえるだけやなくて、めっちゃ話しかけるし。
せやから、こんなひたむきな想いを、一目惚れやからって跳ね退けたような奴なんかはよ忘れて欲しいねん。
せやけど、神崎さんはまだそいつんこと忘れられへんって、まだまだ大好きやって言うし。
まあ、こんな強い想い、そんなすぐ変わるわけないやんな。
せやからその想いがだんだん風化するまで側にいて、少しずつ俺を見てくれたらええなって思ってたんやけど。
「あー、どないしよ。」
「お、珍しいやん、昼休みにクラスおんの。最近なんかいっつもどっか行ってたもんなー。今日は行かへんの?」
「行かへんのやなくて、行かれへんねん。」
あんなきっぱり、気にしないで、なんて言われたらもう引くしかないやろ。
というかもしかして、俺の下心気づいてたんかな。
フラれたとこに付け込むとか最低とか思われとるかもしらん。
うわ、もうほんまアカン。なんかアカン。
「ほんま珍しいわ。白石が煮詰まっとる。」
「アホ。俺かて煮詰まることくらいあるわ。」
「そんな煮詰まるくらいなら、なんかよぉわからんけど行ってきたらええやん。白石、最近どっか行くときめっちゃ楽しそうやったし、行ってみたらなんかスッキリするんちゃう?」
いや、せやから行かれへんって、と言いかけて、ふと考えた。
「…せやな。」
まだ何も言うてへんのに引くなんて俺らしくないわな。
「とりあえず当たってくるわ!」
「おう、くだけてこいや!」
くだけんのは嫌やな、とちょっと苦笑しながら、おおきに、と行って、神崎さんのクラスに向かった。
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