5:傷が癒えたら
なんでかわからないけど、白石君はあれからよく私に構うようになった。
廊下ですれ違っても話しかけてくれるし、休み時間もたまに私のクラスにきて、一氏君か小春ちゃんに用事なのかなって思ったら、私のとこにやってきてくれたり。
もしかして私と仲よくなりたいって思ってくれてるのかも、なんて思えたら嬉しいけど、たぶん違うと思う。
白石君は、私が誰か白石君以外の人にフラれたときに白石君に傷をえぐられてショックを受けてるって勘違いしてるから、きっと罪悪感とかで気にしてくれてるんだ。
「あの、白石君。私大丈夫だから、なんか罪悪感とか感じてるなら、もう気にしなくていいよ。」
本当は少しだけ、どんな理由にせよ白石君が構ってくれるならいいか、なんて思ったりもしたけど、白石君の大事な時間をこんなことにさかせちゃだめだよね。
「大丈夫て言うけど、…まだ好きなんやろ?」
好きに決まってるじゃないか、そんなの。
私が黙って白石君の靴に目を落とすと、白石君は私の頭に優しく手を置いた。
「なあ、神崎さんの傷が癒えるまでは側におらしてや。」
なんだろう、なんか今さらに傷口が広がった気がする。
傷が癒えたら白石君は側にいなくなって、でも白石君が側にいる限りたぶん傷が癒えることはなくて。
うわ、なんだこの堂々巡り。
「本当に、本当に、気にしなくていいから!じゃあね!」
もうとりあえず逃げよう、と私は足早に自分のクラスに向かった。
白石君は立ち尽くしているみたいで、追ってきてはいなかったから安心した。
これだけはっきり言ったんだから、もう今度こそ本当の本当に、白石君と関わることはないな、と思うと、自分で決めたことなのに胸が痛くなった。
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