3:フラれたんだ
意識が飛んじゃえばいいのに、と現実逃避をしてみたところで、白石君が目の前にいるという事実は変わらない。
私は立ち上がって、ガバッと頭を下げた。
「えっと、神崎さん?」
「ごめんなさい、ちょっと諸事情でいろいろてんやわんやであんな喧嘩売るような真似をしてしまって!」
多分今の私は顔面蒼白な気がする。
「いや、気にせんでええよ。俺も無神経やったし、というかタイミング悪くて、俺の方こそ堪忍な。」
あんな失礼なこと言ったのに、気にせんでええ、とか、白石君なんて心が広いんだ。
あれ、というか、タイミング?
なんのことだろう、と思いながらも頭を下げていたら、その頭にポンと手を置かれた。
「一目惚れやからアカンってフラれてもたんやろ?せやのにあんな廊下の真ん中で俺が、一目惚れはいややなぁとか言うたもんやから。ほんま堪忍な。」
どうしよう、白石君なんか勘違いしてるよ。
いや、白石君は一目惚れいやだっていったんだから、私、一目惚れだからフラれたってことに、なる?そしたら白石君あながち間違ってないかも。
そうか、私、フラれたんだ
「思い出させて堪忍な。…泣かんといて。」
白石君にハンカチを差し出されて、涙を流してることに気づいた。
一目惚れだった。
でも、これは確かに恋だったんだよ。
白石君を一日で何回見られるかが毎日の楽しみで、白石君が誰か友達と話してる時にすれ違ったら声が聴こえるから嬉しくて、白石君に会えなかったときは図書室で毒草の本を読んで、白石君もこの本読んだかな、なんて思いを馳せて、それだけで本当に幸せだったんだ。
もう、フラれちゃったけど。
早く泣き止まなきゃ、と思うのに、涙は全然止まらなかった。
結局白石君は、休み時間が終わるギリギリまで私の頭をゆっくり撫でて泣き止まそうとしてくれていた。
そんな優しさが逆にフラれた私には辛くて泣き止めなかったけど、もう白石君と関わるのもこれで最後だと思ったら、その手を拒むこともできなかった。
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