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2:嫌われたかも


白石君に思わず喧嘩をうるような感じで話しかけてしまった後、私は足早に教室に戻り机に突っ伏した。

「小春ちゃん、私はもうだめだ、もう本当にだめだ。」

前の席に座っていた小春ちゃんは、どないしたん、と振り返ってくれた。

「白石君に嫌われた。まだ名前すら知ってもらえる前に嫌われた。顔を合わせた第一印象があれってもう0からのスタートどころじゃないよ、マイナスだよ。」

小春ちゃんは、また蔵りんのことか、と小さく笑ってから続けた。

「蔵りんはそんな簡単に人嫌ったりせぇへんよ。」

「そんな簡単に人を嫌ったりしないような人が、人を嫌いになってしまうくらいのことをしてしまったんだよ。小春ちゃん、十数分前の私を殴って止めて。」

ちょっと無理やね、と言われ、わかってるもん、そんなこと、とまた机に突っ伏すと、苦笑する小春ちゃんの後ろの方から人が近づいてくる足音が聞こえた。

「おー、神崎、さっきの啖呵すごかったな。お前白石のことそんな嫌いやったん?」

そういえばさっき白石君の隣にいたっけ、一氏君。

「お願いだから忘れて、もう私明日から隠れて生きる、ソクラテスもびっくりなくらい隠れて生きる。」

「伊織ちゃん、隠れて生きよ、はソクラテスやなくてエピクロスやで。しかも意味ちゃうからね、別に物理的に隠れぇ言うたわけとちゃうからね。まったく、そんな落ち込んどらんとはよアタラクシア(心の平静)見つけぇ。」

小春ちゃんの言うことは難しかったけど、なんとなく励ましてくれてるんだろうな、ということだけは理解できた。

「あー、神崎さん?」

小春ちゃんの励ましのおかげで落ち着きかけていた私の心は、ふいに聞こえてきた声のせいであっけなくまた乱された。

まさかこの声は、と恐る恐る机から顔をあげると、一氏君の横に白石君が立っていた。

なんかわからんかったけど、着いて来たかったみたいやから連れて来た、と言う一氏君を見て、意識が飛びそうになった。

いっそのこと意識飛んでくれたらよかったのに!


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