数えだしたらキリがない
「なあ、二人ってもしかして付き合ぉとるん?」
謙也君に爆弾を落とされ固まっていると、白石君は私の方をじっと見ていた。
白石君には好きって言われけど、私はまだちゃんと返事できてないし、付き合ってない、よね。
「えっと、付き合ってないよ。」
なんとなく白石君の方を見られなくて、謙也君を見ながらそう言うと、白石君の方からすごく痛い視線を感じた。やっぱり白石君の視線には質量があるよ!
「へえ、俺ら付き合ってなかったんや。」
「え、えっと、」
白石君は久しぶりにこわい笑顔をうかべ、そのまま教室を出て行った。
「どうしよう、謙也君!」
「え、なんか俺アカンこと聞いた?」
「いや、謙也君は悪くないよ、全く悪くないんだけど…、うぁあ、どうしよう!」
ひとまず白石君を追わなきゃいけないような気がして、教室から出て行った白石君を追いかけた。
どこにいるかなんて分からないけど、気づいたら足は、以前白石君に連れてこられた裏庭に向かっていた。
「しっ、らいし君!」
「…神崎。」
裏庭にいた白石君の前に辿り着いたはいいけど、全力で走ってきたせいで息がきれてうまく喋れなかった。
もっとも、息がきれてなかったとしても何を話したらいいのかわからなかったかもしれないけど。
「神崎、すまんな。」
「え?」
「今まで散々こわがらせてきたんやから、いきなり優しゅうなったからって好きになってとか、無理やんな。」
何を言ってるんだ、白石君は。
なんて言えばいいのかわからなくて固まっていると、白石君はさみしそうに笑って、ほな教室戻ろか、と言った。
ここで素直に教室に戻ったら、もう白石君は話しかけてくれなくなるような、そんな気がした。
そんなの、嫌だ。
「…、待って。」
「ん、神崎?」
ふと見せる柔らかい笑顔とか、さりげなく気遣ってくれてるのにそれを表面には出さないわかりにくいとことか、今でもたまに笑いながら意地悪を言ってくるときもあるけど、落ち込んでたら普段言いもしないような冗談を言って笑わせてくれるとことか、ああ、どうしよう、数えだしたらキリがない。
「…白石君、すき。すっごく大好きだから、そんな顔しないで。」
なんで私はこんな大きな気持ちに気づかないでいられたんだろう。
なんで伝えずにいられたんだろう。
そんな顔しないで、なんて言っておいて、なんだか私の方が泣きそうになってきた。
「ほ、んまに?」
「うん、本当。」
少し不安げに聞いてくる白石君にうなずいて見せると、いきなり視界が暗くなった。
いきなりだったせいで、抱きしめられてると気づくのに、数秒かかってしまった。
「ほな、また謙也に聞かれたら、次は付き合ぉとるって答えてくれる、やんな?」
「え…、うん。」
「待てぃ、なんやねん今の間は。」
いや、だってなんか照れくさくて、と言うと白石君はさらに抱きしめる力を強くした。
「(あー、もう、照れくさいとかなんやねん、かわええ。)」
白石君は何も言わなかったけど、白石君から伝わってくる体温があったかくて、心まであったかくなった。