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call7:簡単なことや


前に光君に教わったコツを意識して作ってみたら、自分でも惚れ惚れするくらいの白玉ができた。

綺麗なまんまるで、もう食べるのがもったいないくらい。

毎晩恒例となった光君との電話タイム、私はさっそくそのことを報告した。

「光君光君、白玉、今度はうまくいったよ!モチモチツヤツヤで形もまんまる。もう光君にも食べて欲しいくらいだったよ。」

「へぇ、よかったやん。」

「ふっ、白玉マスターと呼んでくれてもいいんだよ。」

私がふざけてそう言うと、光君は馬鹿にしたように笑った。

「伊織はほんまアホやな。」

「わー、光君冷たーい。光君のばかー。無表情ー。」

私が笑いながらそう続けると、光君も、はっ、と笑った。

「無表情も何も、伊織俺の顔見えてへんやないか。」

た、確かに。でもなんか認めたらなんか負けな気がする。

「声にも表情ってあるの!声が無表情だから、顔も無表情。」

「いや、俺今めっちゃわろてるで?」

「うそだー。」

こんな落ち着いたトーンの話し声で、顔だけすごく笑ってたらそれはそれで面白いな、と思ってなんだか笑ってしまった。

「ほな確かめてみるか?」

「え、写メ?」

顔まだ見たことないから楽しみだな、なんて呑気に考えていた私は、光君の次の言葉を聞いて固まってしまった。

「アホ、会おう言うてんねん。」

「へ?」

「明日の土曜あいとるか?」

「え、うん、あいてるけど、」

「ほな明日11時に駅前な。」

「え、ちょっと、」

「ほなまた明日。」

「え、あの、…もうきれてる!」

口を挟むすきなく、明日会うことが決定されてしまった。

どうしよう、という気持ちと、緊張とワクワクとドキドキで胸がいっぱいになってしまった。

と、とりあえず、明日着る服を決めて寝よう!





昨日は緊張で寝られないかと思ったけど意外とぐっすり眠れた。おかげで寝起きもすっきり!

緊張しつつ、約束の時間よりも早く駅前に向かうと、財前君の姿を発見した。

「財前君!学校以外で出会うの初めてだね。今日は何か用事?」

「おん、待ち合わせやねん。」

「わ、偶然!私も待ち合わせなんだ。」

私が笑いながら言うと、財前君は、せやろな、と言った。

「え、私が待ち合わせしてるってなんでわかったの?」

そんなに服装気合い入り過ぎてるかな、と思って自分の格好を確認しながら聞くと、財前君はそらわかるわ、と言った。

「やって、伊織と待ち合わせしとんの、俺やし。」

へ?

私と財前君が、待ち合わせ?今日私が待ち合わせしたのは光君、だよね。あれ、というか財前君には苗字しか教えてなかったと思うんだけど、どうして名前知ってるんだろう。

「私が待ち合わせしてるのは、光君だよ?」

「俺が、光や。財前、光。」

「え、え?」

光君と待ち合わせしてたら財前君が来て、財前君は実は光君で、え、なんだもう頭がパンクしそう。

「驚かせて悪かったから、とりあえず落ち着き。」

財前君はそう言ってから、私の手を引いて歩きだした。

手を引かれるままについて行きながら、どこに行くの?、と聞くと、甘味処と答えられた。

きっと白玉ぜんざい食べるんだろうな、なんて思ってたら、なんだか笑ってしまって、少し気持ちが落ち着いてきた。





店に入って、しばらくすると、財前君が注文した、白玉ぜんざいと抹茶プリン、が机に運ばれてきた。

「ん、抹茶プリン好きやったやろ。」

「ありがとう。」

財前君には抹茶プリンが好きだなんて話してないし、やっぱり光君は財前君なんだな、と少し実感した。

一口食べて、あ、ここの抹茶プリン美味しい、と思わず呟くと、光君は、せやから連れて来てん、とちょっと嬉しそうに微笑んだ。

いつも電話越しにこんな笑顔でいたのなか、なんて思うと、なんだかちょっともったいない気持ちになった。

「光君はさ、電話の相手が私って知ってたの?」

「おん。」

そっか、知ってたのか。

「電話しだすちょっと前くらいに、学校で会わなくなったのは、もしかしてわざとだったりする?」

「おん。」

電話の相手は私だってわかっててかけて、でも学校ではわざと避けて。

「もうだめ、お手上げ!わけわかんない。」

「簡単なことや、」

「何?」

「学校で話してたら謙也さんつながりで、俺が年下なんばれてまうって思ったから避けて、でも伊織と話したいから電話かけてん。」

もっとわけがわからなくなった!と思っていると、表情からそれが伝わったのか、光君はちょっと困ったように笑った。

「せやからな、伊織が好きやって言うてんねん。」

へ、という口の形のまま固まっていると、今のんくらいは理解せぇや、と頭を軽くはたかれた。

「…財前君と光君は、同一人物、なんだよね?」

「せやで。」

いつも何かあると助けてくれて、姿を見るだけで何故か安心してしまう財前君、何気ない会話が楽しくて声を聞いたら疲れも全部吹き飛んでしまう光君。

そうか、同じ人だったんだ。

財前光が一人の人であることを、ようやく本当に実感した。

なんでこんなことをしたんだ、とか、騙してたんだ、とか、電話番号なんで知ってたの、とか、なんだかそんなことは、どうでもよくすら感じられた。

ただ、私が一つ強く思ったこと、

「…よかった。」

「ん?」

「よかった、財前君と光君、同じ人だったんだ。」

今度はさっきまでとは逆で、光君が、わけがわからないという顔をしていた。

「いつも助けてくれる財前君が好きで、いつも何気ない話で元気をくれる光君も好きで。でも二人とも好きなんて、だめだから、二人を好きって気持ちには気づかなかったふりをしようって、そう思ってたんだ。でも、財前光君は一人だから、私、好きになってもいいよね。だから、よかった。」

私がそう言ってから嬉しくて笑うと、光君は片手で口元を押さえてそっぽを向いた。

照れてる、と思って笑うと、何わろてんねんアホと頭を軽くはたかれた。

これからは電話だけじゃなくて、こうやって直接も会おうね、と言うと、光君は、当たり前や、と笑ってくれた。

そっか、当たり前、か。

そのことがなんだかすっごく嬉しくて、頬がもっとゆるんでしまった。


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