call4:そそっかしいな
最近光君と夜電話で話すのが日課になってきている。
話すことは今日あったこととか、面白かったテレビとか、いろいろ。
一度も会ったことはないし、お互い名前と電話番号以外は何も知らないのに、不思議と光君との会話は心地好かった。
「なんか今日声響いとるんやけど、スピーカーフォンにしとるん?」
「あ、わかる?ちょっと受話器持ちにくくて。」
声の響き具合だけで、スピーカーにしてるのわかるとかすごいなー、と感心していると、光君はちょっと心配そうな声になった。
「受話器持ちにくいて、どないしたんや。」
「あ、大丈夫だよ。こけちゃって、ちょっと手を打っただけだから、明日にはもう痛くないんじゃないかな。」
ひどい怪我じゃないことに安心したのか、ほっ、と息を一つついてから、財前君は、ふっ、と小さく笑った。
「ほんま伊織は前からそそっかしいん変わらんな。」
光君が笑った!いつもは笑ったとしても、馬鹿にしたような笑い方しかしない光君が!
「ん?というか、なんで私が前からそそっかしいの知ってるの?」
「…、アホそんなん話しとったらすぐ分かるわ。」
「なっ、ひどい!」
私って、声だけでそそっかしいの分かるくらいなんだ!気をつけよう。何に気をつければいいのかわからないけど、気をつけよう。
「そういえば、光君って、歳いくつなの?私中3なんだけど。」
話を変えようと別の話題をふると、光君は黙ってしまった。
聞いたらいけなかったのかな。
「言わな、アカンか?」
「いや、えっと、言いたくないなら言わなくていいよ。」
「なら言わん。」
光君はまた黙りこんでしまった。声からしてだいたい同じくらいかなって思ってたけど、もしかして、すっごく年上だったり、すっごく年下だったりして、それを気にしてるのかな。
「私、光君と話してて楽しいから、別に同い年でも、歳がすっごく上でも下でも気にしないけど。」
「…さよか。」
そう言った光君はなんだか嬉しそうで、なんでか私も嬉しくなった。
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